今Netflixで話題の「地面師」…地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。
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そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。
同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。
『地面師』連載第40回
『逮捕のリスクを顧みず「警察」さえも詐欺に利用…「総額6億5000万円」を騙し取った「地面師」たちに不動産業界震撼』より続く
元弁護士の言い訳
被害届を受理した警視庁の万世橋警察署の動きについて、地道が言う。
「警察が調べると、呉さんご自身は実在する華僑でした。現在は台湾に住んでいて吉祥寺にはいない。それをいいことに犯人たちは土地の所有者になりすましたのでしょう。聞くと、この手の事件は最近頻繁に起きているので、警察も大わらわのようです。あのアパホテルも引っかかっていると言っていました。私の事件の背後には、昨今世間を騒がせてきた大掛かりな地面師集団の影がちらついています」
一般に地面師たちの素顔はほとんど知られていない。内田マイクや北田文明のような大物でさえ、不動産業界でその姓名ぐらいは知っていても姿かたちは、よくわからない。取引に登場するときは偽名を使うので、不動産会社やマンションデベロッパーの業界の人間でも気づかないケースが意外に多い。それが実情といえる。
たとえば、もともと東京神田の諸永総合法律事務所に話を持ち込んだ山口芳仁はどんな人物か、と業界に問うても、ほとんど答えが返ってこない。山口が経営する「ジョン・ドゥ」なるコンサルタント会社にしても、実態のないペーパー会社のようなものだから、誰も知らない。
「実は当初、われわれは諸永事務所の吉永から、富ヶ谷のほかにも物件を薦められていました。こちらが検討しているあいだに別の買い手がついた、と吉永が言うので、手を出さずに済んだ経緯があります。それで、こういう事態になったので、それら他の案件も調べ直してみたのです。すると、いろいろ出てきました」