アメリカ大統領選挙の投開票を目前に控え、AIによる偽情報拡散への懸念が高まっている。読売新聞の調査によると、AI生成の選挙関連偽情報を取り締まる法律を制定したのは、50州と首都ワシントンのうちわずか20州にとどまることが明らかになった。連邦レベルでの規制は未導入で、多くの地域で有効な対策がないまま大統領選を迎えることになる。
AI偽情報対策法、現状は?
各州の立法データベースや議会事務局、議員への取材に基づく読売新聞の調査で、AI偽情報対策の現状が浮き彫りになった。対策法を制定済みの20州の法律は大きく2つの類型に分けられる。
類型1:AI生成偽情報の流布を違法化(但し明示すれば免責)
ミシガン州など一部の州では、AIで生成した動画・画像・音声を用いた選挙関連偽情報の流布を違法としている。ただし、AIで生成したことを明示すれば免責される。ミシガン州では明示がない場合、罰金や拘禁刑などの罰則規定も設けられている。
alt
類型2:AI生成情報の明示義務化(偽情報禁止規定なし)
もう一方の類型は、AIで生成した選挙関連情報を流布する場合、AI使用の明示を義務付けるもの。しかし、偽情報そのものの禁止規定は含まれていない。
背景にディープフェイクの脅威と州レベルの対応
20州の大半が対策法を制定したのは今年。背景には、生成AIの普及に伴う「ディープフェイク」と呼ばれる精巧な偽画像・偽動画の拡散がある。1月のニューハンプシャー州民主党予備選でバイデン大統領の偽音声が有権者へ送られた事件は、全米に衝撃を与えた。
ユタ州では3月、選挙関連情報にAI使用の明示を義務付ける法律が成立。同州共和党のウェイン・ハーパー上院議員は、「選挙の透明性確保のため、有権者は情報がAIで加工されたものか知る必要がある」と述べている。(読売新聞取材に基づく)
明示すれば合法? 拡散防止への課題
しかし、これらの州法ではAI生成であることを明示すれば合法となる。発信者の特定も難しく、偽情報の拡散防止には至っていない。
高まる国民の懸念と連邦政府の対応の遅れ
米調査機関ピュー・リサーチ・センターの9月調査によると、米国成人の8割が大統領選におけるAI悪用による偽情報生成・拡散を懸念している。連邦政府による規制を求める声は強いが、大統領選前の法整備は実現しなかった。
alt
AI時代の大統領選、情報の真偽を見極める重要性
AI技術の進化は情報アクセスを容易にする一方、偽情報拡散のリスクも高めている。有権者一人ひとりが情報の真偽を見極めるリテラシーを高めることが、AI時代の大統領選でこれまで以上に重要となるだろう。