インターネットの発達とともに、誰もが気軽に情報発信できる時代になりました。しかし、その一方で、手軽さゆえに質の低い記事、いわゆる「コタツ記事」が蔓延している現状も無視できません。本記事では、能町みね子氏の著書『正直申し上げて』を参考に、コタツ記事の問題点、そしてその背後にあるネットニュースの構造について深く掘り下げていきます。
コタツ記事とは何か?その実態
「コタツ記事」とは、その名の通り、コタツに入ったまま、取材もせずに書けるような記事のこと。具体的には、著名人の発言やSNSへの投稿を無断で引用し、独自の分析や見解を加えることなく、ただ「〇〇さんがこう言っていました」と伝えるだけの記事を指します。
alt能町みね子氏の著書『正直申し上げて』は、このような言葉の軽視ともいえる現状に警鐘を鳴らしています。(カバーイラストレーション:冬野梅子)
ジャーナリストの江川紹子氏がスポーツ紙のコタツ記事を批判した際、それを受けて弁護士ドットコムニュースが「江川氏がスポーツ紙に痛烈な皮肉」という記事を掲載した事例は、まさにコタツ記事の連鎖と言えるでしょう。皮肉なことに、コタツ記事批判が新たなコタツ記事を生み出すという、構造的な問題を露呈しています。
コタツ記事量産の実例:ウェブ版中日スポーツ
能町氏は、ウェブ版中日スポーツを例に挙げ、コタツ記事の実態を具体的に示しています。江川氏に関する記事では、なんと本文の約7割が江川氏のブログからの転載だったとのこと。独自の見解は皆無で、まさに「コタツ記事」の典型例と言えるでしょう。
中日スポーツは、「〇〇さんが△日に自身のX(旧ツイッター)を更新」という定型文でコタツ記事を量産しているようです。これは、コンテンツ制作の手間を省き、効率的に記事を生成するためのシステムと言えるかもしれません。しかし、その結果として、質の低い記事が大量に生産され、読者に誤った情報や浅薄な解釈が伝わる可能性があります。
コタツ記事が生む問題点
コタツ記事は、単に情報の質が低いだけでなく、様々な問題を引き起こします。
情報の歪曲
引用元を恣意的に切り取り、文脈を無視して掲載することで、情報が歪曲される危険性があります。発信者の真意が伝わらなかったり、誤解を招いたりする可能性も高く、深刻な影響を与える可能性も否定できません。
著作権侵害
無断で他人の著作物を転載することは、著作権侵害に当たる可能性があります。引用元を明記したとしても、著作権者の許諾を得ずに転載することは違法となる場合もあります。
メディアの信頼性低下
コタツ記事の蔓延は、メディア全体の信頼性を低下させます。読者は、どの情報が信頼できるのか分からなくなり、メディアに対する不信感を募らせる可能性があります。
まとめ:質の高い情報発信のために
コタツ記事の問題は、ネットニュースメディアの構造的な問題と密接に関連しています。アクセス数を重視するあまり、質の低い記事が量産されるという悪循環に陥っているのです。 読者としては、情報を見極める目を養うことが重要です。複数のメディアの記事を比較検討し、情報の出所や信憑性を確認する習慣を身につける必要があるでしょう。 メディア側も、読者の信頼を得るために、質の高い情報発信を心がける必要があります。安易なコタツ記事の作成ではなく、取材に基づいた独自の分析や見解を提供することで、メディアとしての価値を高めていくことが求められます。
料理研究家の山田花子さん(仮名)は、「情報が溢れる現代だからこそ、情報の質を見極める力が重要です。メディア側も、読者の信頼を裏切らないような記事作りを心がけてほしい」と語っています。