日本の精神科患者数は増加の一途を辿り、2020年時点で600万人を超えています。20人に1人が精神科で治療を受けている計算になり、精神科病床数も世界最多です。一方で、イタリアでは25年ほど前に精神科病院が全廃されました。なぜ、このような大きな違いが生まれたのでしょうか?この記事では、イタリアの精神医療改革の歴史と、日本との違いについて探ります。
イタリア精神医療改革の立役者、フランコ・バザーリア
イタリアの精神医療改革の立役者、フランコ・バザーリア
イタリアの精神医療改革は、フランコ・バザーリアという精神科医の尽力なくしては語れません。バザーリアは、1961年にゴリツィア県立精神病院の院長に就任するまで、精神病院の実態をほとんど知りませんでした。イタリア精神医療に詳しいジャーナリストの大熊一夫氏によると、当時の精神医学研究者は精神疾患そのものに関心を持ち、患者の置かれた状況にはあまり目を向けていなかったといいます。
バザーリアが院長に就任した当時のイタリアの精神病院は、患者をベッドに縛り付けるなど、監獄のような劣悪な環境でした。バザーリアは、この非人道的な現状を目の当たりにし、精神病院を改革しようと決意したのです。
精神病院全廃への道のり
閉鎖された精神病院のイメージ
バザーリアは、患者を隔離・収容するのではなく、地域社会で生活できるように支援する体制の構築を目指しました。「精神の闇を暴く改革」と称されたこの改革は、1978年の「180号法」制定によって実現し、精神病院は全廃へと向かいました。
大熊氏によると、バザーリアは患者の自由と尊厳を重視し、「精神病」という概念自体に疑問を呈していました。彼は、精神的な苦しみは社会的な要因によって引き起こされることが多く、患者を隔離するのではなく、社会との繋がりの中で支えることが重要だと考えていたのです。
日本との違い:改革の必要性
日本では、依然として精神科病院が多く存在し、長期入院の問題も指摘されています。イタリアの改革から学ぶべき点は、患者の社会復帰を支援する地域医療体制の充実と、精神疾患に対する社会全体の理解促進です。
精神疾患は誰にでも起こりうるものであり、患者を隔離するのではなく、地域社会で支えることが重要です。イタリアの改革は、日本の精神医療の未来を考える上で大きな示唆を与えてくれます。