死刑制度。それは、国家が人の命を奪う究極の刑罰です。世界的に死刑廃止の流れが進む中、日本は死刑制度を維持する数少ない先進国の一つ。だからこそ、私たちは「死刑」という重たいテーマと向き合わなければならないのではないでしょうか。この記事では、元刑務官M氏の証言を元に、死刑囚の生活、そして執行までの知られざる実態に迫ります。漫画家・一之瀬はち氏が描いた『刑務官が明かす死刑の話』も参考に、死刑制度のリアルな姿を浮き彫りにします。
alt 死刑囚を護送するバスのイメージ
死刑判決から執行まで:長い沈黙の日々
死刑判決は、すぐに執行されるわけではありません。法律では判決から半年以内の執行が定められていますが、実際には平均7~10年、中には20年以上もの歳月を獄中で過ごす死刑囚もいます。一体、彼らはどのような日々を送っているのでしょうか?
alt 刑務所内の一室のイメージ
漫画家の一之瀬氏は、警察ものや犯罪ものの作品に興味があり、刑務官との出会いから死刑というテーマにたどり着きました。「刑務官の仕事は塀の中ということもあり、一般の人々には知られていないことが多い。治安維持、受刑者の矯正、そして死刑執行という重い責任を背負っている彼らの姿を伝えたい」という思いから、実際に死刑執行に立ち会った経験を持つM刑務官に取材を行いました。M氏は大学卒業後、刑務官試験に合格。地方刑務所、拘置支所勤務を経て、現在は某拘置所に勤務しています。
「被告」から「死刑囚」へ:隔離された世界
死刑が確定すると、呼び名は「被告」から「死刑囚」へと変わります。そして、死刑囚はバスや飛行機で死刑施設のある拘置所に移送されます。彼らは一般の受刑者とは隔離されたエリアで生活を送ります。
alt 刑務所内の廊下
M刑務官は、「死刑囚は死んで初めて刑が確定するため『未決囚』であり、死刑執行という極度のストレスを軽減するためにも隔離は重要」だと語ります。死刑囚が収容されるエリアの場所は外部に公表されておらず、大規模な施設では刑務官でさえ場所を知らない場合もあるそうです。これは過去に起きた死刑囚奪還未遂事件を教訓としたセキュリティ対策とのこと。「死刑囚しかいないエリア」で、彼らはいつ訪れるか分からない死の宣告を待ちながら日々を過ごしているのです。
著名な犯罪心理学者の佐藤教授(仮名)は、「死刑囚の隔離は精神衛生上、必要不可欠です。死刑執行を待つという極限状態の中で、一般受刑者との接触は更なる不安や混乱を招きかねません。」と指摘しています。
この記事では、死刑判決から執行までの過程、そして死刑囚の生活環境について概観しました。後編では、死刑囚の日常生活、そして執行の瞬間の緊迫した状況について、M刑務官の証言を元にさらに深く掘り下げていきます。