高齢化が進む日本で、親の介護は避けて通れない問題。特に一人っ子は、その責任を一身に背負う可能性が高く、大きな負担を抱えるケースも少なくありません。この記事では、祖父母と実母の介護を経験した女性の体験を通して、一人っ子介護の現実と社会に必要な支援について考えます。
長男の一人娘としての重圧
介護の重圧に悩む女性
花岡里美さん(50歳、仮名)は、6年間、祖父母と実母の3人の介護を一人で担ってきました。彼女を苦しめたのは、「長男の一人娘」という家制度の名残とも言える重圧でした。
九州の農村で育った里美さんは、幼い頃から「家を継ぐ」ことを期待され、進学や就職も地元を離れることは許されませんでした。介護福祉士の資格を取得し、地元の施設で働き始めましたが、それはまるで家族が敷いたレールの上を歩いているようでした。
伝統的な家屋
結婚相手にも「婿養子」であることが求められ、そうでなければ子供を諦めるよう迫られました。両親も祖父母の考えに同調し、里美さんを支えることはありませんでした。父親はギャンブルに溺れ、母親は病弱で、親子関係は良好とは言えませんでした。
結婚と出産、そして夫の死
結婚式のイメージ
交際相手は最終的に婿養子となり、里美さんと結婚。しかし、生まれた子供は女の子でした。周囲からは「次は男の子を」と期待され、里美さんは大きなプレッシャーを感じていました。その後、2度の流産を経験。心身ともに疲弊する里美さんを見かねて、婿養子に戻ってくれた夫でしたが、里美さんが30歳の時に病気で急死してしまいます。
里美さんは9歳の一人娘を育てるため、夜勤のないデイサービスに転職。懸命に働きました。そして30代前半、祖父母の介護も始まり、ついに「トリプル介護」が始まったのです。
介護離職の危機と社会の責任
里美さんのようなケースは、決して特殊な例ではありません。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、夫婦の子ども数は減少傾向にあり、一人っ子の割合は増加しています。今後、一人っ子介護の問題はさらに深刻化すると予想されます。
介護と仕事の両立は容易ではなく、介護離職のリスクも高まります。企業は介護休業制度の整備や柔軟な勤務形態の導入など、介護する従業員への支援を強化する必要があります。また、行政も在宅介護サービスの充実や介護施設の拡充など、多様なニーズに対応できる体制を構築することが重要です。
家族の介護は、肉体的にも精神的にも大きな負担を伴います。特に一人っ子は、その責任を一人で背負い込みがちです。社会全体で支え合う仕組みを作ることで、介護する人もされる人も、安心して暮らせる社会を目指していく必要があるでしょう。