経済学者・成田悠輔さんが「 聞かれちゃいけない話 」をする新連載。第3回目のゲストは、東京大学名誉教授の上野千鶴子さん。
ここでは「文藝春秋PLUS」掲載の対談 「あなたは世代間対立をあおっています 26000字ノーカット完全版・中編」 を一部抜粋して紹介する。
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上野 ちょっと話を戻しますけれども。あなたの著書、『22世紀の民主主義』でしたか。
成田 一冊はそうです。
上野 それは拝読しました。
成田 ありがとうございます。
上野 最終的に“これが解だ”と書いてあったのが、「無意識民主主義」というものでしたが、言語学でこういう研究があるんです。
あるワードを提示して、そのワードに対して快か不快かを判断してボタンを押して反応するというテストをやってみると、反応するまでの時間が短ければ短いほど差別意識が強く出てくることがはっきり分かる。言語というのはそれが刷り込まれる時に、価値観とともに刷り込まれますので、そこから逃れることって人間には非常に難しいですよね。
だから、人権論者であっても、環境保護論者であっても、瞬時に反応すると、差別は再生産されるんです。無意識民主主義にはそういう要素がある。私は「危険な思想だな。こんなことが実現してもらっちゃ困る」と思いました。
成田 その側面はあると思います。瞬発的な反応とか、無意識的な反応みたいなものを取り出すと、やっぱり言語や論理、データによって反芻される前の裸の差別意識とか快・不快みたいなものが表れやすい。
一方で、言語的な反芻とか議論を経たものにも弱点があります。たとえば「熟議民主主義」という理念が昔からありますよね。しかし、人々が時間をかけて熟議すればするほどお互いの立場や思想の違いが露わになって、政治的な分断が深まることも多いという実験結果もあります。
無意識的で瞬発的な反応には、それ固有の偏りやバイアスがある。でも、十分に吟味や熟議、情報収集を重ねて作られた意見にも、別のバイアスが含まれている。
なので私たちができるのは、いろいろなバイアスを持つ意見を大量に並べて融合すること。そうすることで、お互いのバイアスを打ち消した相対的にマシな民意に関するデータが得られるのではないか――それが言いたかったことです。