ユニクロを率いる柳井正会長兼社長が、BBCのインタビューで、同社が新疆ウイグル自治区産の綿花を使用していないことを初めて公式に認めた。この発言は、人権問題と経済的利益の狭間で揺れるユニクロの現状を浮き彫りにしている。
新疆綿問題とユニクロの沈黙
中国新疆ウイグル自治区における人権問題への懸念が高まる中、多くの国際的なアパレルブランドが新疆綿の使用中止を表明してきた。しかし、ユニクロはこれまでこの問題に関する明確な立場を示していなかった。柳井会長は「政治的な質問にはノーコメント」と繰り返す一方で、中国市場での事業拡大を続けてきた。
ユニクロ柳井会長
今回のBBCインタビューで、柳井会長はついに新疆綿不使用を明言したものの、その理由については多くを語らず、「政治的な話になるので…」と口を閉ざした。この沈黙の裏には、巨大な中国市場を失うことへの懸念が透けて見える。
中国市場への依存と3000店舗構想
中国はユニクロにとって最大の消費市場であるだけでなく、重要な生産拠点でもある。柳井会長は、中国に14億人の人口を抱える巨大市場の可能性を強調し、現在の約1000店舗から3000店舗への拡大構想を明らかにした。
過去には、生産コスト削減のため中国以外の国への工場移転を検討したこともあったが、中国の高度な製造技術とインフラを再現することは容易ではなく、中国への依存は深まるばかりだ。
ファストファッションからの脱却と持続可能な成長
激化するアパレル業界の競争において、SHEINやTemuといった中国発のファストファッションブランドが台頭している。しかし、柳井会長は「ファストファッションの将来はない」と断言し、環境問題への意識の高まりを背景に、ユニクロは耐久性のある高品質な衣料品の提供に注力していく方針を示した。
長年愛用している自身のシャツを例に挙げ、「ユニクロの服は何シーズンも着られる」と強調し、東レとの共同開発によるヒートテックやエアリズムなどの高機能素材を活用した商品開発がユニクロの成長を支えていると語った。
10兆円企業への野望と米中関係の狭間
ユニクロは2024年に創業40周年を迎え、売上高は過去最高の3兆円を突破した。柳井会長は次の目標として10兆円企業、そして世界一のアパレル企業になるという野望を掲げている。
しかし、その実現には、人権問題への意識が高い欧米市場での成功が不可欠だ。米中対立が激化する中、ユニクロは政治的な中立性を維持しながら、両市場でのバランスを保つという難しい舵取りを迫られている。
中国ビジネスに精通するストラテジー・リスクスのCEO、アイザック・ストーン・フィッシュ氏は、「もはや政治的中立を保てる大企業はない」と指摘し、米中両国からどちらにつくのか迫られる企業の苦境を浮き彫りにしている。
柳井会長の10兆円企業への道は、米中関係の動向に大きく左右されることになるだろう。