米国の子どもの健康状態が過去数十年にわたり著しく悪化していることが、新たな研究で明らかになりました。特に死亡率においては、同程度の所得を持つ他国と比較して米国がはるかに高い水準にあることが強調されています。この深刻な状況は、子どもたちが直面している広範かつ根深い課題を浮き彫りにしています。
医学誌JAMAに最近発表されたこの研究は、全米規模の数億件に及ぶ健康記録や電子カルテなどを詳細に分析した結果に基づいています。論文の共著者であるフィラデルフィア小児病院のクリス・フォレスト教授は、「この国の子どもたちは苦しんでいる」と現状を強く指摘しています。
高い死亡率の現状
研究によると、2007年から2022年にかけて、米国の1歳から19歳までの子どもの死亡率は、他の高所得国と比較して1.8倍高いことが判明しました。この差が最も顕著だったのは、暴力と交通事故による死亡率です。銃による死亡確率は他の対象国の15倍、自動車事故による死亡率は2倍を超えています。
歴史的に見ると、1960年代の米国の子どもの死亡率は、他の同程度の所得の国々とほぼ同水準でした。しかし、1970年代から状況は変化し始め、現在では、デンマークやドイツを含む他の裕福な18カ国と比較して、米国では1日あたり約54人多くの子どもが死亡しています。
乳児死亡率も同様に憂慮すべき状況です。2007年から2022年にかけて、米国の乳児死亡率は他の18カ国と比較して1.78倍でした。この高い乳児死亡率の主な原因として、早産や、ベッドでの窒息、首が絞まることによる突然死の多さが挙げられています。
拡大する慢性疾患とメンタルヘルス問題
子どもの慢性疾患もまた増加の一途をたどっています。フォレスト教授が小児科医としてのキャリアをスタートさせた1990年代には、慢性疾患を持つ子どもは稀でしたが、今回の調査では、現在ではほぼ半数近くの子どもが何らかの慢性疾患で治療を受けていることが明らかになりました。特に、2023年における子どもの慢性疾患の罹患率は、2011年と比較して15%から20%も高まっています。
この期間において、改善が見られた慢性疾患は喘息のみです。一方で、うつ病、不安、孤独感といった心の健康問題は増加傾向にあります。また、自閉症スペクトラム障害、行動上の問題、発達の遅れ、言語障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)といった発達に関する問題も増加しています。
身体的な問題も大幅に増えています。肥満、運動機能の低下、睡眠障害、そして思春期早発などが含まれます。
慢性疾患の深刻さについては、米政府の「アメリカを再び健康にする委員会」が最近発表した報告書でも焦点が当てられました。報告書は、子どもたちが慢性疾患のために「米国史上最も不健康な世代」になったと指摘しています。その原因として、超加工食品、環境中の化学物質、スマートフォンなどの電子機器の慢性的な使用、医薬品の過剰処方などが挙げられています。
米国の小児病院で、医師が子どもの患者に腎臓結石の模型を使って説明する様子
背景にある「発達エコシステム」の問題
フォレスト教授は、子どもの健康悪化の根本原因について、より広範で根深い問題が存在すると述べています。「私たちの子どもたちは非常に有害な環境で育っています。これは化学物質や食べ物、iPhoneといった個別の要因だけでなく、より幅広く、いわゆる発達エコシステム全体の問題です。これを変えることは非常に難しいでしょう。」
この「発達エコシステム」の問題は、子どもを取り巻く社会環境全体を指しており、食生活、物理的な環境、社会的なつながり、医療アクセスなど、複合的な要因が絡み合っています。
さらに、子どもの健康は母親の健康状態とも密接に関連しています。フォスター教授は、「この国では女性も苦しんでいることから、子どもたちは人生の良いスタートが切れない」と指摘します。
特に、妊婦が適切な医師の診察を受けにくい「マタニティー砂漠」の問題が深刻化しています。非営利団体マーチ・オブ・ダイムズの調査によると、米国の郡の約35%がマタニティー砂漠と化しています。中絶規制を厳格化する州が増える中、医師が診療しやすい州へと移動する傾向があり、この割合はさらに増加すると予測されています。2020年から2022年にかけて、マタニティー砂漠地帯に住む妊婦の早産は1万件を超えました。これは、妊娠中の適切なケアが受けられないことが、直接的に子どもの健康に悪影響を及ぼしていることを示唆しています。
結論
最新の研究は、米国の子供たちの健康が他の先進国に比べて著しく劣悪な状態にあることを明確に示しています。高い死亡率、特に暴力や事故によるもの、そして慢性疾患やメンタルヘルスの問題の増加は、この世代が直面する課題の大きさを物語っています。超加工食品、環境要因、デジタル機器の過剰使用、医療へのアクセス問題など、複数の要因が複雑に絡み合った「発達エコシステム」全体への介入が、米国の子どもたちの健康を改善するために不可欠な取り組みとなるでしょう。この問題は、母親の健康や医療アクセスといった社会的な課題とも深く連携しており、包括的な対策が求められています。