銀行の貸金庫は安全の象徴、まさに鉄壁の守り神と信じられてきました。しかし、その神話が脆くも崩れ去る事件が発生しました。三菱UFJ銀行の行員が顧客の貸金庫から10億円超の金品を盗んだという衝撃的なニュースです。本稿では、事件の概要、手口、そして貸金庫の安全管理体制の問題点について深く掘り下げていきます。
事件の概要:ベテラン行員による4年半にわたる犯行
2024年10月31日、三菱UFJ銀行は元行員による貸金庫からの窃盗事件を公表しました。舞台となったのは練馬支店と玉川支店。貸金庫の管理責任者だった元行員は、2020年4月から2024年10月までの約4年半にわたり、顧客約60人の貸金庫から、時価10数億円もの金品を盗み出していたのです。
三菱UFJ銀行練馬支店
被害額の大半は現金で、その他は貴金属類とされています。元行員は11月14日に懲戒解雇処分を受け、現在も銀行側による調査が継続中です。被害の全容解明には、顧客への聞き取り調査と元行員の供述内容の照合が必要となる見込みです。
貸金庫の仕組みと管理体制:どこに潜む脆弱性?
貸金庫は、一般的にカードと鍵の二重ロックで管理されています。顧客は個別の鍵を所有し、銀行側はその副鍵を厳重に保管します。入室用のカードも銀行側が管理し、副鍵の取り出しには複数の役席者の承認が必要となるなど、厳格な管理体制が敷かれています。
金融ライターの椿慧理氏(仮名)は、「貸金庫の鍵管理は銀行によって異なりますが、マスターキーのようなものは存在しません。副鍵は顧客の目の前で封緘され、3者で割印を押した上で、銀行の金庫内で厳重に保管されます。鍵の取得には複数の役席者のICカードによる承認が必要で、その記録はすべて電子的に残ります」と説明しています。
三菱UFJ銀行上層部
しかし、今回の事件では、管理責任者であった元行員が自身のICカードで副鍵を取り出すことができたと見られています。椿氏は、「顧客の入退室時や、他の行員からの依頼を装って入室した可能性が高い」と推測しています。
なぜ4年半も発覚しなかったのか? 監査体制の課題
今回の事件で最も疑問なのは、なぜ4年半もの間、犯行が見過ごされてきたのかという点です。椿氏は、「貸金庫の利用頻度が少ない顧客を狙い、監査のタイミングを巧みに逃れていた可能性がある」と指摘しています。また、「顧客からの紛失の訴えがあっても、銀行側は貸金庫の中身を知りえないため、初期段階での対応が不十分だった可能性も考えられる」と付け加えています。
銀行は貸金庫の安全性を強調していますが、今回の事件は、その管理体制に脆弱性が存在することを露呈しました。内部犯行を防ぐためのより厳格な対策が求められます。
10億円もの現金…その使途と今後の捜査の行方
元行員は犯行を認めているものの、盗んだ現金の使途については明らかになっていません。警察の捜査は、被害者である顧客との照合作業が完了した後に本格化すると見られています。今後の捜査の進展が待たれます。
この事件は、銀行の信頼を揺るがす重大な不祥事であり、改めて貸金庫の安全管理体制の強化が急務であることを示しています。