韓国、61年前の自衛事件でチェ・マルジャ氏に無罪求刑:検察が異例の謝罪

韓国で61年前に自身への性暴力を未遂に終わらせるため、加害男性の舌を噛み切ったとして有罪判決を受けていたチェ・マルジャ氏(79)に対し、釜山地裁での再審初公判で検察が無罪を求刑した。検察は過去の判断の誤りを認め、公の場で謝罪するという異例の対応を見せた。この事件は、自らの身を守るために闘い続けた女性の尊厳と、時代の変化とともに見直されるべき司法の在り方を問いかけるものとして注目されている。

61年前の性暴力事件で舌を切断し、無罪を求刑されたチェ・マルジャさん61年前の性暴力事件で舌を切断し、無罪を求刑されたチェ・マルジャさん

チェ・マルジャ氏の61年越しの闘い:事件の経緯

この事件は1964年5月6日の夜に発生した。当時21歳だったチェ氏は、帰宅途中に男性から性暴力を受けそうになり、抵抗する中で男性の舌を噛み切り、約1.5センチ切断させた。この行為は自己防衛であったにもかかわらず、チェ氏は傷害罪で逮捕・起訴され、6カ月の拘禁を経て、懲役10カ月・執行猶予2年の有罪判決を受けた。この不当な判決は、チェ氏の人生に長く暗い影を落とすことになった。

再審請求の道のり:司法判断の転換

判決から半世紀以上が経過した2020年、チェ氏は韓国の女性支援団体「韓国女性の電話」などの協力を得て再審を請求した。しかし、当時の釜山地裁と釜山高裁は、「無罪とする明白な証拠がない」として請求を棄却した。諦めなかったチェ氏は、「捜査機関による不法拘禁」を根拠に再び抗告。2024年、最高裁にあたる大法院は、「不法拘禁に関する一貫した供述には信ぴょう性がある」と判断し、ついに再審開始を決定した。この大法院の判断が、長年の苦しみに終止符を打つ大きな転機となった。

検察の異例な無罪求刑と謝罪の背景

今回の再審初公判で、検察はチェ氏に対する無罪を求刑するという極めて異例の措置を取った。検察側は、「事件当時は夜間で人通りも少なく、他人の助けを期待できない状況だった。急迫かつ不当な侵害に対する正当防衛の可能性が認められる」と説明し、「これは被害者の正当な防衛反応であり、違法性は認められない」と明言した。

さらに検察は、当時国家と検察が被害者を保護すべき立場であったにもかかわらず、それができなかったことを深く謝罪した。彼らは「被告人に言葉では言い表せない苦痛を与えた」と述べ、法廷で頭を下げて陳謝した。これは、過去の司法の過ちを公に認め、被害者の尊厳回復に積極的に取り組む姿勢を示すものとして、高く評価されている。

代理人とチェ氏の反応:正義の実現と社会への影響

チェ氏の代理人は、この事件を「一人の女性が自らを守るために闘い続け、ついには社会をも動かした」事例として称賛した。そして、「これは司法が被害者を加害者にしてしまった事件であり、もし現代の性平等社会であれば、チェ氏は服役もせず、加害者扱いされることもなかっただろう」と強く主張し、時代の変化に合わせた司法の責任を訴えた。

公判後、チェ氏は「万感の思いでいっぱい。国民の皆さんの助けでここまで来られた」と感謝の言葉を述べた。検察の謝罪については「まだ実感は湧かないが、今からでも過ちを認めたことに、韓国の正義は生きていると感じる」と語り、長年の苦難の末に訪れた正義の実現への喜びをにじませた。この歴史的な再審判決は、来る9月10日に釜山地裁で言い渡される予定だ。

参考資料