韓国戒厳騒動:わずか6時間で解除も違憲・違法の疑念残る

韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が宣言した非常戒厳令は、わずか6時間後の4日午前4時半に解除されました。しかし、この短時間の戒厳発令は、手続きの適法性や憲法違反の疑念など、多くの問題点を残しています。国民の不安を煽る結果となり、今後の政局に大きな影響を与える可能性があります。

戒厳発令の手続きに不透明さ

尹大統領は3日夜、国民向けの緊急特別談話をテレビで生放送し、非常戒厳を宣言しました。しかし、この宣言が憲法で定められた国務会議の審議を経たものだったのかどうかが不明瞭です。憲法第89条と戒厳法第2条は、大統領が戒厳を宣言する際は国務会議の審議が必要と規定しています。

韓国大統領談話の様子韓国大統領談話の様子

一部報道では、「国務会議は開催されなかった」「韓悳洙(ハン・ドクス)首相は知らなかった」といった情報が流れる一方で、「非公開の国務会議があった」という説も出ており、真相は明らかになっていません。

ソウル市立大学ロースクールのキム・デファン教授(仮名)は、「国務会議が開催されなかった場合、戒厳宣言は無効であり違憲だ」と指摘しています。「戒厳を前提に軍を動かした高位将軍は罷免される可能性もある」とも述べ、戒厳発令に伴う軍・警察の行動にも違法性の疑念が生じるとの見解を示しました。

戒厳要件の不備と国会への通告遅延

憲法第77条は、戒厳発令の要件を「戦時・事変、またはこれに準ずる国家非常事態」と定めています。しかし、今回の戒厳宣言では、この要件が満たされていたのか疑問視する声が上がっています。

さらに、戒厳法第3条は、戒厳宣言時には理由、種類、施行日時、施行地域、戒厳司令官を公告する義務を定めていますが、これも遵守されていなかった可能性があります。朴安洙(パク・アンス)陸軍参謀総長が戒厳司令官に任命されたのは、尹大統領の談話から約1時間後でした。

戒厳法第4条は、戒厳宣言後、直ちに国会へ通告するよう定めていますが、今回のケースでは、生放送談話が通告に該当するかどうか議論を呼んでいます。禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長は、大統領から国会への通告はなかったと明言しています。与党「国民の力」からも「ニュースで知った」という声が上がるなど、混乱が生じています。

戒厳司令部の布告令は憲法違反か?

戒厳司令部は、「国会と地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」という布告令を出しました。しかし、憲法第77条は、戒厳下でも言論、出版、集会、結社の自由などに関して特別な措置を取ることができるとしているものの、立法府の活動を制限する規定は存在しません。

それどころか、憲法は国会の戒厳解除要求権や国会議員の不逮捕特権を保障しており、立法府の活動を保護しています。戒厳司令部の布告令は、憲法の精神に反する可能性があります。

国会への武力行使と内乱罪の可能性

戒厳司令部の布告令は単なる宣言にとどまらず、現場で実行に移されました。武装した軍兵力が国会議事堂に進入し、警察が議事堂を包囲する事態が発生。国会議員や補佐陣との衝突も発生しました。

高麗大学ロースクールのキム・ソンテク教授(仮名)は、「布告令で国会の政治活動を停止させることは、大統領の権限や憲法・戒厳法にも違反する明確な違法行為だ」と指摘。「過去の全斗煥・盧泰愚両元大統領の内乱陰謀罪裁判では、国会議員の登院妨害が内乱罪の構成要件とされた」とし、今回のケースも内乱未遂罪に問われる可能性があると述べています。

野党の反発と大統領弾劾の可能性

共に民主党など野党勢力は、戒厳発令に対する尹大統領の責任を追及する構えを見せています。既に「尹大統領は直ちに退陣すべきだ」との声明を発表しており、弾劾手続き開始も視野に入れていると表明しています。大統領弾劾訴追には国会在籍議員の3分の2以上の賛成が必要ですが、野党が結束し、与党からも一部造反議員が出れば、弾劾が成立する可能性も否定できません。

今回の戒厳騒動は、韓国政界に大きな波紋を広げています。今後の政治状況の推移に注目が集まります。