夫以外の子を産み、夫には知らせずに夫とともに育てていく「托卵(たくらん)」を描いたドラマ『わたしの宝物』(フジテレビ系、木曜よる10時~)。話題の作品を、夫婦関係や不倫について著書多数の亀山早苗さんが読み解きます(以下、亀山さんの寄稿)。
言葉が足りない人と、言葉が過ぎる人と……
なにやらもどかしい。あと一言、きちんと話しておけば展開は変わったはずなのに。そしてなにやらうっとうしい。どうしてあちこちに顔を出して言わなくてもいいことを言うのか。ドラマ『わたしの宝物』の美羽(松本若菜)と、その“親友”である真琴(恒松祐里)のありようである。
美羽と宏樹(田中圭)夫婦に爆弾投下し、ふたりを混乱の渦にぶちこんだ真琴を、美羽は拒絶することもなく、無表情のままだが受け入れている。真琴は、宏樹のもとへもやってきて「(娘の)栞ちゃんはどうするつもりですか」とまたも状況をささくれ立ったものにしていく。自ら騒ぎを引き起こしておきながら、今度は親切ごかしにあちこちをつないで歩く真琴に、なぜかモヤモヤイライラしてしまう。
夫婦はお互いの行いに、罰を与えたかったのだろうか
6、7話で、とうとう美羽と宏樹の関係は崩壊してしまった。娘の栞と海に入ろうとした宏樹だが、思いとどまって自宅に帰る。そして美羽と対峙するのだ。「栞の父親は誰?」と。だが美羽は答えなかった。
罪悪感のなせる業であり、すべての責任は自分でとるという意思表明なのかもしれないが、ここまで頑なになる必要があるのかどうか。宏樹は薬指から結婚指輪をはずしてカランとテーブルに置く。そして美羽を追い出し、ワンオペで娘を育てて仕事にも支障を来すようになっている。
「栞とは血がつながっていないから、一度離れたらもう戻れない」と彼は真琴に言い、美羽には「美羽に罰を与えたかったんだと思う」と白状する。もしかしたら、美羽の頑なさは、モラハラ時代の宏樹に罰を与えようとしたのかもしれないと、こちらは勝手に想像してしまう。
泣くなり叫ぶなり、許しを乞うなり、感情を動かせばいいのに、美羽の心は動かない。それは自分への罰のつもりなのだろうが、穿った見方をすると夫を許していないともとれるほどだ。