かつて「転職35歳限界説」というものも存在した。35歳を過ぎると新卒で入った会社から別の会社に転職できなくなるから、ステップアップしたかったら、その会社が向いていなかったら35歳までに動け、という意味だ。それが昨今では、働き方の多様化や転職マーケットの拡大などもあり、50代でも転職できるようになっている。そうしたなかで、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、「今の50代の転職には悲哀を感じるケースも多い」と言う。どういうことか、中川氏がレポートする。
* * *
私が会社員だった25年ぐらい前は「転職35歳限界説」なんてものもあり、出世コースから外れた40代以降の社員はなんとか会社にしがみつこうとしていた。
そんな人が大勢いて、職場の雰囲気もその年配者に対して「若い頃はお疲れ様でした」的に見る向きもありました。一方で「窓際族」という言葉もあり、当人達は若干冷めた視線も感じていたと思います。それでも、その人達は「私以外にも社内に同様の境遇の人はいる」という気持ちで肩身の狭い思いはそれほどしなかったはず。年下の管理職から敬語で仕事を依頼されながら、年の功でこなしていました。そして残業はあまりせず、定時を少し過ぎると帰路に着くわけです。
しかし、昨今、ネットで「老害」や「働かないおじさん問題」などがしきりと取り沙汰されるようになり、そうした人々を見る目は厳しくなっている。若手社員はもとより、上司や人事担当の社員も「50代でも転職できる時代なんだから、転職してもらえないかな……」なんて思うようになっています。
そうした空気感や視線というものは、あまりに鈍感な人を除き察するもの。それがいたたまれなくなって、退職を決断する人もいます。そして、小さめの規模の経験者募集をしている会社に給料3割減等で転職することになります。知り合いの元エンタメ関連企業社員は、過去のネット炎上案件が元で左遷させられ、10年以上閑職に追いやられ、50代中盤になった時にもう耐えきれずに転職しました。
ある人気雑誌の元編集長は、かつて同誌の部数を伸ばすなど活躍しましたが、編集長を退いた後はいわゆる“一人部屋”のようなところに押し込まれ、仕事をするでもしないでもない状況になった。後輩達は同氏がかつてキレ者としてバリバリ活躍していた時代を知っているため、その境遇を気の毒そうに見るし、妙によそよそしくなる。一人部屋に追いやった人事や役員は完全に同氏をスルー。かくして同氏は50代で会社を飛び出し、無職になったのです。