教師の「自腹」問題:情熱と現実の狭間で

教師の仕事は、子供たちの未来を育む崇高な職業。しかし、その裏には、自腹を切る現実が潜んでいる。給特法、過重労働、そして教育現場の課題について、元小学校教師の田中まさおさん(仮名)の経験を通して紐解いていきます。

教師の自腹:残業代という名の重荷

田中さんは43年間、小学校の担任教師として教壇に立ち続け、2024年3月に再任用を終えました。「生まれ変わっても教師になりたい」と語る田中さんですが、同時に教師の自腹問題の深刻さを訴えています。特に大きな負担となっているのが、残業代に相当する部分です。

altalt43年間教壇に立ち続けた田中さん。教師の自腹問題の深刻さを訴えています。

かつては、残業や自腹を切っても、子どもたちのために働く喜びが勝っていました。しかし、近年は管理職や教育委員会の権限が強まり、教師の自由が奪われ、負担が増加しています。朝7時から夜9時まで働くのが当たり前になっている現状に、田中さんは危機感を抱いています。

教員の「定額働かせ放題」:給特法の功罪

教員の「定額働かせ放題」の背景には、1971年に制定された教職員給与特措法(給特法)があります。月給の4%を調整額として上乗せする代わりに、残業代は支払われません。制定当時は教員の残業時間が月8時間程度だったため、4%という数字が設定されましたが、現在の長時間労働の現状とは大きくかけ離れています。

田中さんは、2018年に埼玉県に対して約242万円(11か月分)の残業代支払いを求める訴訟を起こしました。しかし、ドリルや小テストの採点、保護者対応などは「自発的行為」とみなされ、残業代は認められませんでした。この判決は、国立や私立学校の教員には残業代が支払われていることと比較しても、矛盾していると言わざるを得ません。

集団訴訟へ:未来の教育のために

2023年、最高裁は田中さんの上告を棄却しましたが、5年にわたる闘いは、全国の教員に問題意識を広げるきっかけとなりました。田中さんは現在、集団訴訟の準備を進めています。給特法が廃止されない限り、「定額働かせ放題」はなくならず、優秀な人材が教職を敬遠する悪循環が続くと危惧しています。

教育評論家の佐藤一郎氏(仮名)は、「教師の労働環境の改善は、日本の教育の未来にとって喫緊の課題です。給特法の見直しだけでなく、教員の負担軽減に向けた具体的な施策が必要です。」と指摘しています。

教師の情熱を支えるために

教師の自腹問題は、単なる金銭問題ではありません。教師の情熱を蝕み、ひいては子どもたちの教育の質にも影響を及ぼす深刻な問題です。田中さんのように、教育現場の課題に立ち向かう教師たちの声を聞き、より良い教育環境を築き上げていく必要があります。

教師の待遇改善、働き方改革、そして給特法の見直し。これらの課題解決に向けて、私たち一人ひとりができることは何か、考えてみませんか?