ベトナム、中国系ECサイト制限の真相:南北高速鉄道計画と経済安全保障

近頃、ベトナムで中国系大手ECサイト「Temu(テム)」と「SHEIN(シーイン)」の閲覧が制限されていることが話題になっています。中国との蜜月関係を築きつつも、アメリカや日本にも接近する「全方位外交」を掲げるベトナム。今回の措置は、南北高速鉄道計画の進展と時を同じくして行われたことから、経済安全保障上の対中警戒感を示すものとして注目を集めています。本稿では、ベトナムと中国の複雑な関係性、そしてECサイト制限の背景にある真意を探ります。

経済摩擦の火種:中国系ECサイトへの風当たり

低価格戦略が生む摩擦

TemuとSHEINは、低価格商品を武器にベトナムで急成長を遂げてきました。しかし、その成長の裏で、国内産業への圧迫懸念が浮上。2023年10月の国会でも、中国系ECサイトへの警戒感が表明され、対応策が議論されました。ベトナム商工省は両サイトに対し、ECプラットフォーム事業者としての登録手続きを求めていましたが、期限までに完了しなかったため、事業の一時停止が命じられたと報じられています。

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歴史に刻まれた中国への警戒心:千年におよぶ攻防

繰り返される中国の侵略

ベトナムは、西暦939年に約1000年にわたる中国支配から脱却しました。その後も、強大な中国の勢力に対し、表向きは恭順の姿勢を示しつつ、水面下では牽制を続けてきました。近現代においても、中国はベトナム戦争後の混乱に乗じて西沙諸島の一部を武力占領。1979年にはカンボジア紛争への介入を口実にベトナムに侵攻、さらに1988年には南沙諸島の一部も占領しました。これらの歴史的経緯が、ベトナムの中国に対する根深い警戒心の源となっています。

全方位外交のジレンマ:中国との蜜月と警戒心の狭間

複雑な経済関係

現在、中国はベトナムにとって最大の貿易相手国です。両国は1150kmに及ぶ国境線を接し、人的交流も盛んです。そのため、ベトナムはロシアと同様に、中国との歴史的な繋がりを維持しつつ、アメリカや日本にも接近する全方位外交を展開しています。

南シナ海問題と国防意識の高まり

しかし、経済成長に伴い海軍力を増強し、海洋進出を強める中国に対し、ベトナムは南シナ海における権益をめぐり、対中警戒感と国防意識を高めています。ベトナムの対中外交は、「恭順」の建前と「牽制」の本音の両面で成り立っていると言えるでしょう。

新指導者の外交戦略:中国重視の姿勢と真意

習近平国家主席との会談

2023年8月、ベトナム共産党のトー・ラム新書記長は、初の外遊先に中国を選び、習近平国家主席と会談しました。これは、対中関係を重視する姿勢を示すものと解釈されています。一方、中国側もベトナムへの高官派遣や弔意表明など、手厚い対応を見せています。その背景には、安全保障面でアメリカや日本に接近するベトナムへの牽制という思惑も見え隠れします。

結論:ECサイト制限は経済安全保障の布石か

ベトナムによる中国系ECサイトの制限は、国内産業保護の側面だけでなく、経済安全保障上の対中牽制という側面も持ち合わせていると考えられます。今後、南北高速鉄道計画が進展する中で、ベトナムと中国の関係はさらに複雑化していく可能性があります。 ベトナムの動向は、周辺国ひいては国際社会にも大きな影響を与えるため、引き続き注視していく必要があります。