米トランプ政権は、追加関税や輸入制限を突き付けて相手国に譲歩を促す強気の戦術で交渉を続けてきた。カナダとメキシコの北米自由貿易協定(NAFTA)には自動車分野、韓国に対しては鉄鋼分野で不満を表明し、譲歩を引き出すことに成功。中国とは貿易不均衡をめぐって今も対立を続けている。
日本も今回の協定の交渉中に、米軍駐留経費の日本の負担増や貿易赤字の是正などで揺さぶりをかける米国に対し、基幹産業の自動車にかかる2・5%の関税の撤廃を見送ったうえ、農産品の関税は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の水準まで引き下げるなど、大幅に譲歩した格好となった。
だが、自動車関税の維持は米国側が最もこだわって交渉に臨んだ分野だけに、米国がTPPを離脱する前の交渉で決まっていた、25年かけて関税をゼロにするという、極めて長期間の関税撤廃に全力を注ぐよりも、産業界から要望が多かった工業製品の関税を優遇する際の基準となる部品の調達比率を定めた「原産地規則」の適用除外に焦点を絞って交渉にあたったほうが効率が良いと転換。今回の合意に至った。
また、国内農家への影響が大きい農業分野では、TPPで約束した水準を上限とすることを米国に認めさせたうえで、品目ベースでの関税撤廃率は、TPPの82%を大幅に下回る40%弱にとどめている。
トランプ氏は、協定の署名後に「アメリカの農家と牧場にとって大きな勝利で、わたしにとっても重要だ」などと喜んだ。日本側は米国に目立つ分野でしっかり花を持たせた一方、農業をしっかり守るなど日本側はしっかりと実を得た、との見方もできる。(ニューヨーク 飯田耕司)