栗林嶺氏が明かす首相官邸の舞台裏：安倍・菅・岸田政権を支えた電通出身クリエイティブディレクターの軌跡

2023年11月27日と30日、経済動画メディア『ReHacQ』のYouTubeチャンネルに、大手広告代理店・電通の元社員である栗林嶺氏が登場し、首相官邸でのクリエイティブディレクターとしての稀有な経験を語りました。安倍晋三元首相、菅義偉元首相、岸田文雄元首相の三代にわたる政権を間近で支え、政府のメッセージ発信の裏側を担った栗林氏の証言は、日本政治における情報戦略の一端を垣間見せる貴重な内容となっています。本記事では、その詳細と世間の反応を深掘りします。

栗林嶺氏の異色の経歴と「忖度しない」姿勢

早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、電通にクリエイティブ職として入社した栗林氏。主に大企業のコンサルティングやクリエイティブ制作を手がけ、過去最多の来場者を記録した「東京モーターショー」の企画にも携わりました。しかし、その経歴には異例の逸話があります。東京モーターショーでは、自動車会社幹部に対し「ショーを一番良くするためには、あなた方がここからいなくなることです」と直言し、一時的に”出禁”となったことも。この「忖度のなさ」が電通上層部に評価され、後の首相官邸クリエイティブディレクター就任への道を拓くことになります。

栗林氏は安倍、菅、岸田の３政権でクリエイティブ・ディレクターを務めた

首相官邸でのクリエイティブ・ディレクターとしての役割

2020年4月から2022年6月にかけて、栗林氏は電通からの出向という形で首相官邸のクリエイティブディレクターを務めました。これは栗林氏で3代目となる役職で、政府や官邸、内閣から発信される情報の管理と品質管理が主な職務でした。官僚が作成する専門的な文書を一般に分かりやすい言葉に変換したり、首相の視察や外遊時に「最もメッセージが伝わる瞬間」を捉えるための写真や動画のディレクションを担当。SNSやメディアでの発信を通じて、首相のブランドイメージ構築や支持率向上にも貢献したといいます。

栗林氏は、首相官邸での仕事について「基本的には総理と一緒」に行動し、「政府や官邸、内閣から世に出す情報の管理、クオリティコントロール」を担っていたと説明。言葉遣いだけでなく、写真や動画の選定、レタッチ指示など、視覚的メッセージ戦略にも深く関与していました。

安倍元首相との思い出と公の情報管理

特に安倍元首相とは深い信頼関係を築いていたと語る栗林氏。安倍元首相は「映像が大好き」で、カット割りやアングルについても積極的に意見を出し、「生まれ変わったら映画監督になりたい」と語っていたといいます。栗林氏は安倍元首相のスピーチに映画のセリフを引用するなど、彼の好みを理解したクリエイティブで貢献しました。

安倍元首相の退任時には、栗林氏が制作した総理時代のドキュメンタリー映像を共に鑑賞し、涙ながらに思い出を語り合ったエピソードも披露されました。栗林氏は、いつかその映像を映画化し、安倍元首相の功績を後世に残したいと「勝手に約束した気持ちになっている」と語り、在りし日の故人を偲びました。

菅元首相とメディア対応の舞台裏

菅元首相については、官房長官時代の定例会見で東京新聞の望月衣塑子氏とのやり取りが有名ですが、栗林氏はこのような場面でのメディア対応についても助言を行っていたことを示唆しました。「それ以上喋らせるなよ」といったやり取りや、「嫌なことを聞かれちゃったね、どうしよう」といった状況で、官邸が特定記者の質問にどう対応すべきかアドバイスしていた裏側を明かし、聴衆を驚かせました。

内部告発と「適正な情報公開」への賛否両論

栗林氏の「首相官邸のクリエイティブディレクター」という貴重な経験に基づく裏話は、YouTubeのコメント欄やX（旧Twitter）で大きな反響を呼びました。しかし、その内容は賛否両論を巻き起こしています。

肯定的な意見として、「普段見られない政治の裏側が見れて面白い」「貴重な証言」といった声が上がる一方で、批判的な声も多数寄せられています。
「いくら辞めたとはいえ、顧客の内情をペラペラと暴露するのはまずいのではないか」「機密性の高い公的機関の業務内容を話すのは信用できない」といった意見や、「現役の電通社員に迷惑がかかるのではないか」といった懸念も表明されました。広告代理店関係者からも、「国家機密ではないにせよ、公的機関の業務を退社後に公に話す姿勢は疑問」との声があり、電通への負のイメージに繋がる可能性も指摘されています。

栗林氏の告白は、政府のコミュニケーション戦略の重要性とともに、情報の公開範囲や倫理に関する議論を提起しています。彼の経験が、今後の政治広報のあり方や、情報公開の透明性について深く考えるきっかけとなることは間違いないでしょう。