東京の緑が減っている。都会の緑陰、木々の葉が生い茂る面積を表す「樹冠被覆率」が、この10年で減少しているという衝撃的な事実が明らかになった。緑豊かな都市環境の創出、ヒートアイランド現象の緩和、そして人々の健康維持に不可欠な緑。一体何が起きているのか、その現状と対策を探る。
東京23区の樹冠被覆率、10年で2割減
東京の都市景観
東京大学「都市・ランドスケープ計画研究室」の調査によると、2013年から2022年の9年間で、東京23区の樹冠被覆率は9.2%から7.3%に低下。これは東京ディズニーランド約23個分に相当する緑が失われたことを意味する。リモートセンシング技術を用いた今回の調査は、東京23区全体を対象とした初の試みであり、その結果は深刻な現状を浮き彫りにしている。世界各国では、都市計画において樹冠被覆率を重要な指標として活用しているが、日本ではその認識がまだ低い。都市緑化の専門家である緑地計画研究所の佐藤一郎氏(仮名)は、「日本は都市緑化において、世界から遅れをとっていると言わざるを得ない」と警鐘を鳴らす。
都心と郊外で明暗:緑の格差が拡大
緑豊かな公園
2022年の調査では、千代田区や渋谷区、港区など都心部で樹冠被覆率が高い一方、墨田区や荒川区、大田区では低い数値が記録された。都心部では公園や庭園、神社仏閣の存在が緑の減少を食い止めていると考えられる。一方、住宅地が大半を占める杉並区、練馬区、世田谷区などでは、地価高騰や相続税対策による土地売却の影響で、戸建て住宅の増加に伴い緑が減少している。特に戸建て住宅地における樹冠被覆率の減少は40.6%と著しく、深刻な状況だ。
樹木の伐採、都市開発が緑減少の主因
樹冠被覆率の減少を示すグラフ
樹冠被覆率減少の主な要因は、民間の住宅開発、都市再開発、そして公園や街路樹の伐採だ。都市開発の進展は避けられない側面もあるが、それと同時に緑を保全・増加させる取り組みが不可欠だ。「都市の緑は、人々の健康や生活の質に直結する重要な要素。開発と保全のバランスを図り、持続可能な都市づくりを目指すべき」と佐藤氏は指摘する。ニューヨーク市では、積極的に緑化を進めることで、ヒートアイランド現象の緩和や大気汚染の改善に成功している。日本の都市も、こうした先進事例を参考に、緑豊かな都市環境の実現に向けて取り組む必要がある。
緑を守るために:私たちにできること
都市の緑を守るためには、行政の取り組みだけでなく、市民一人ひとりの意識改革も重要だ。自宅の庭やベランダに緑を増やす、地域緑化活動に参加するなど、小さなことから始めてみよう。緑豊かな都市は、人々の暮らしを豊かにし、未来への希望を育む。私たちの手で、未来の緑を守り育てていこう。