近年、日本全国でクマによる人身被害が相次ぎ、これに対応するため人里に出没したクマの駆除が増加しています。しかし、その駆除を巡り、自治体や担当部署に対し、過激な抗議や苦情が殺到しており、行政の通常業務を著しく圧迫する深刻な問題となっています。
北海道での具体的苦情事例と職員の疲弊
特に被害が多発している地域では、自治体への抗議が顕著です。死者も発生した北海道福島町でのクマ駆除後には、町役場や道庁に「クマ殺し」「無能集団が」といった内容を含む200件以上の苦情が寄せられました。これらの苦情電話には、職員が一つ一つ対応せざるを得ず、中には2時間を超える長時間の対応を強いられたケースも報告されています。道庁のヒグマ対策室の担当者は、感情的で誹謗中傷に近い内容も多く、「非常につらく感じる」と、現場の精神的負担を訴えています。
人里に出没し、警戒されるクマ。全国各地でクマによる人身被害が増加している現状を示す写真。
秋田県の事例と前知事の発言波紋
秋田県でも昨年12月、スーパーに侵入したクマが駆除された際、県庁に同様の苦情が殺到しました。この状況に対し、当時の佐竹敬久知事が県議会答弁で「(電話で苦情を寄せてくる相手に対し)私なら『お前にクマ1頭送る。住所を教えろ』と言う」と発言し、大きな波紋を呼びました。佐竹氏の発言は物議を醸したものの、自治体側の対応への「無理解」に基づく苦情の電話は後を絶ちません。
女性を襲撃した後、その自宅周辺を徘徊するクマの様子。クマ被害の深刻さと現場の緊迫感を伝える写真。
自治体職員とハンターへの影響、環境相の呼びかけ
こうした抗議や苦情の殺到は、クマ対策に当たる自治体職員や駆除作業を行うハンターを精神的に萎縮させ、適切な対応を遅らせる恐れがあるとして懸念されています。事態を重く見た浅尾慶一郎環境相は、今月5日の記者会見で「職員やハンターを萎縮させ、新たな事故につながりかねない」と述べ、市民に対し、駆除への「自粛」を求めています。クマによる人身被害と、それに対応する行政の苦境は、社会全体で理解を深めるべき複雑な課題となっています。