小学生の「習い事漬け」は本当に良いこと?自由時間の重要性と成長への影響

共働き家庭の増加や早期教育への関心の高まり、また中学受験の過熱といった現代の社会背景から、放課後のスケジュールが習い事で埋め尽くされ、“習い事漬け”になっている小学生は少なくありません。親が子どもの将来を考え、良かれと思って多くの経験をさせようとするのは当然の心理ですが、その選択は本当に子どもの成長にとって最善なのでしょうか。本記事では、現代の小学生を取り巻く習い事の現状と、子どもの健全な発達に不可欠な「自由な時間」の価値、そしてその喪失が子どもに与えうる影響について深く考察します。

小学生の8割以上が習い事、学習塾が断トツ1位

ニフティキッズが小学生を対象に行った「習い事」に関するアンケート調査によると、習い事をしている小学生は全体の84.2%を占めることが明らかになりました。この数字は、現代の小学生の放課後が、いかに多様な活動で彩られているかを示しています。

さらに、習い事をしていると回答した小学生のうち、最も多く通っているのは「学習塾・くもん」で43.3%と、約半数近くにのぼります。これは全習い事の中で圧倒的な1位であり、2位のピアノとは8ポイントもの大きな差をつけています。この傾向は、学力向上や中学受験への意識の高まりを反映していると言えるでしょう。

同調査では、小学生が1週間のうちどのくらい習い事に通っているかについても質問しています。週1日と回答した人が全体の26.3%で最も多かったものの、日数が多くなるにつれて割合は減少する傾向にあります。しかし、週5日通っていると答えた小学生が11.3%、それ以上と答えた小学生も10.4%と、決して少なくない割合に上ることが判明しました。これらのデータは、一部の小学生が非常に多忙なスケジュールの中で日々を過ごしている実態を浮き彫りにしています。

学習に集中する小学生のイメージ、現代の習い事の風景学習に集中する小学生のイメージ、現代の習い事の風景

共働き家庭の増加と「習い事漬け」の背景

習い事を通じて様々な経験が得られ、子どもの成長や可能性を広げることにつながる点は非常に魅力的です。しかし、近年「習い事漬け」の子どもが増加している背景には、社会構造の変化が深く関係しています。特に、共働き家庭の増加は大きな要因の一つです。令和5年版厚生労働白書によると、夫婦共働きの割合は今や夫婦世帯全体の約7割を占めており、子どもを産んだ後も仕事を辞めずに働き続ける女性が増えています。

このような状況の中、放課後児童クラブ(学童保育)の代わりとして、習い事が預け先の一つとして選択されるケースが増えています。また、中学受験対策の早期化も「習い事漬け」を加速させる要因となっています。民間学童保育「キッズベースキャンプ」を運営する東急キッズベースキャンプの代表取締役社長である島根太郎氏は、「土日や長期休みを含めて計算すれば、小学生の放課後の時間は年間約1600時間にもなる」と指摘します。これは小学校の授業時間にあたる年間約1200時間を大きく上回る時間です。島根氏は、「放課後時間は、本来子どもが自由に遊びを選択できる、子どもたちにとっての“ゴールデンタイム”です。しかし、よかれと思って多くの習い事を入れた結果、子どもから自由な時間が奪われているように感じています。余白のないスケジュールは、子どもの成長に影響を与える可能性があります」と警鐘を鳴らしています。子どもにとっては、友達と遊ぶ時間と、自分が本当にやりたい習い事の時間の両方を確保できるバランスが非常に重要なのです。

友達との遊びと「ぼーっとする時間」が育む非認知能力と創造性

「習い事漬け」が子どもに与える大きな弊害の一つは、友達と遊ぶ時間が奪われることです。平日に毎日習い事が入っていると、友達から遊びに誘われても「習い事があるから行けない」という状況が頻繁に発生してしまいます。学校で約束して帰宅後に遊ぶだけでなく、約束もなく友達が突然家先に訪ねてくるような「予期しない交流」こそが、子どもの社会性を育む上で非常に大切だとされています。友達との遊びを通じて、社会に出てから求められるコミュニケーション能力や人間関係形成力、バランス感覚といった「非認知能力」が自然と育まれていくのです。

さらに、見過ごされがちなのが「ぼーっとする時間」の価値です。大人は、子どもがただぼーっとしているのを見ると「何しているの!」とつい言いたくなりますが、その時間にこそ子どもの脳はフル回転しています。例えば、頭の中の情報を整理したり、新しいことを空想したりといったように、意識的な学習時間とは異なる形で脳が活動しています。脳科学的にも、「ぼーっとする時間」が創造性を育む上で重要な役割を果たすことが明らかになっています。

これは、仕事に置き換えて考えても同様です。もし、始業から終業まで1時間刻みでやるべきことを細かく指示されたら、「少しは自分のプランで自由にやらせてほしい」と感じるでしょう。子どもも同じです。常に時間割に沿って動かされるのではなく、自分で次に何をすべきか考え、選択する自由が非常に重要です。この試行錯誤の繰り返しこそが、子どもの自己決定能力を育み、自律した人間としての成長を促す基盤となるのです。

結論

習い事は、子どもに新たな知識やスキルを与え、可能性を広げる貴重な機会を提供します。しかし、過度な「習い事漬け」は、子どもの健全な成長にとって不可欠な「自由な時間」や「自発的な遊び」を奪うリスクをはらんでいます。友達との予期せぬ交流から育まれるコミュニケーション能力や人間関係形成力、そして「ぼーっとする時間」がもたらす創造性や自己決定能力など、非認知能力の育成には、スケジュールに「余白」を設けることが非常に重要です。親は子どもの将来を願いながらも、詰め込みすぎない「余白のあるスケジュール」を与えることで、子どもが自分らしく、主体的に学び、成長できる最適なバランスを見つけることが求められています。

参考文献

  • ニフティキッズ「習い事」に関するアンケート調査
  • 令和5年版厚生労働白書
  • 東急キッズベースキャンプ代表取締役社長 島根太郎氏 発言