学習障害のある子どもたちが、希望する学校に進学し、能力を最大限に発揮できる環境が整っているかどうか。これは、教育の公平性という観点からも非常に重要な課題です。2024年4月、私立学校における合理的配慮の提供が努力義務から法的義務へと変更されました。しかし、現実には対応が進んでいない学校も少なくなく、学習障害のある子どもたちの進学に大きな壁となっている現状が見えてきました。この記事では、合理的配慮をめぐる私立学校の現状、そしてその課題について深く掘り下げていきます。
合理的配慮とは?私立学校の認識不足が浮き彫りに
合理的配慮とは、障害のある人が他の人と同じように教育を受け、社会生活を送ることができるようにするための必要な調整や変更のことです。具体的には、試験での時間延長、パソコン使用の許可、音声教材の提供などが挙げられます。
文部科学省の資料によれば、合理的配慮は障害のある人にとって「機会の平等」を実現するための重要な手段であり、教育機関はそれを提供する義務を負っています。(参考:文部科学省ウェブサイト「合理的配慮」)
しかし、現状は必ずしも理想的とは言えません。都内で行われた進学フェアでの事例からも、私立学校の合理的配慮に対する認識不足が浮き彫りになっています。ある保護者A氏は、読み書きに困難のある学習障害を持つお子さんの高校受験に際し、複数の私立学校に合理的配慮について尋ねたところ、「うちはそういう生徒を対象にしていない」といった回答や、「合理的配慮? 何ですかそれは」といった言葉が返ってきたといいます。公立中学校では合理的配慮に関する話し合いができていたA氏にとって、私立学校のトップの認識の低さは衝撃的だったそうです。
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合理的配慮を受けられない子どもたちの現実:具体的な事例
読み書きに困難のある子どもの支援を行う一般社団法人 読み書き配慮 代表理事の菊田史子氏によると、A氏のようなケースは決して珍しくないといいます。菊田氏の元には、合理的配慮を受けられず困っているという相談が数多く寄せられているそうです。
例えば、書字障害のある高校生が大学の総合型選抜でパソコン使用を希望したにも関わらず、合理的配慮検討委員会で却下された事例や、私立中高一貫校で高校進学後に合理的配慮を提供すると約束されていたにも関わらず、進学後に反故にされた事例など、深刻な状況が明らかになっています。
現場と経営層の温度差:合理的配慮の浸透を阻む要因
これらの事例から、学校現場の教員と経営層の間で合理的配慮に対する認識に温度差があることが見えてきます。教育現場では、読み書きの困難は指導や練習不足ではなく、学習障害という特性によるものだという理解が広まりつつあります。しかし、経営層には合理的配慮の重要性を理解していない、あるいは対応に消極的な人が少なくないようです。
私立学校の中には、生徒獲得競争の激化や、合理的配慮にかかる費用や人的負担などを懸念し、対応に二の足を踏んでいるところもあるかもしれません。しかし、菊田氏は「合理的配慮は特別な優遇措置ではなく、すべての子どもが平等に教育を受ける権利を保障するためのもの」と強調しています。 著名な教育評論家であるB先生も「私立学校こそ、多様なニーズに対応したきめ細やかな教育を提供することで、その存在価値を高めることができるはずです。」と指摘しています。
未来への展望:すべての子供が学びやすい環境を目指して
合理的配慮は、単に障害のある子どもたちのためだけのものではありません。すべての子どもたちが、それぞれの個性や特性を尊重され、学びやすい環境で教育を受けることは、社会全体の利益につながります。私立学校がその役割を積極的に担うことで、よりインクルーシブな教育の実現に大きく貢献できるはずです。 今後、私立学校には、合理的配慮に関する研修の実施や、担当者の配置、相談体制の整備など、具体的な取り組みが求められます。そして、社会全体で、合理的配慮の重要性について理解を深め、子どもたちの未来を支えていく必要があるでしょう。