桶川ストーカー殺人事件から25年:遺族の悲しみとストーカー対策の現状

事件から四半世紀。桶川ストーカー殺人事件は、私たちにストーカー行為の深刻さと被害者を守るための法整備の必要性を突きつけました。21歳の若さで命を奪われた猪野詩織さんのご両親の悲しみ、そして事件を風化させまいとする彼らの活動に改めて焦点を当て、ストーカー対策の現状と課題を探ります。

繰り返される悲劇:猪野詩織さんの場合

1999年10月26日、埼玉県桶川市。JR桶川駅前で大学生の猪野詩織さんは、元交際相手の兄に刺殺されました。この事件は「桶川ストーカー殺人事件」として社会に大きな衝撃を与え、ストーカー規制法制定のきっかけとなりました。

猪野詩織さんと両親の家族写真猪野詩織さんと両親の家族写真

詩織さんは生前、明るく笑顔が絶えない女性でした。両親にとってかけがえのない娘を突然失った悲しみは計り知れません。事件後、父親の憲一さんは2度のがんを患いながらも、120回以上に及ぶ講演活動を通して、事件当時の警察の不適切な対応や報道被害の実態を訴え続けてきました。

警察の対応の遅れと不適切な捜査

事件の発端は、詩織さんと元交際相手の別れ話でした。その後、元交際相手とその兄、知人らによる嫌がらせやストーカー行為が始まりました。自宅への押しかけ、中傷ビラの配布、勤務先への嫌がらせの手紙など、その行為はエスカレートしていきました。

詩織さんと両親は埼玉県警上尾署に何度も相談しましたが、「嫁入り前の娘さんだし、裁判になればつらい目に遭う」「テストが終わってからでもいいんじゃないですか」といった心ない言葉で対応され、真剣に取り合ってもらえませんでした。

事件現場となったJR桶川駅周辺事件現場となったJR桶川駅周辺

告訴状を受理した後も、警察による調書の改ざんなど、不適切な捜査が行われていたことが後に発覚。埼玉県警は「事態の重大性を認識せず、被害者の訴えに対する真摯な姿勢が全く欠如しており、極めて不適切だった」と認め、関係者を処分しました。 犯罪心理学者の田中教授(仮名)は、「この事件は、警察がストーカー行為の深刻さを理解せず、被害者の声に耳を傾けなかったことが悲劇につながった典型的な例と言えるでしょう」と指摘しています。

ストーカー対策の現状と課題

桶川ストーカー殺人事件を契機に2000年にストーカー規制法が施行されました。その後も改正が重ねられ、対策は強化されてきましたが、警察への相談件数は年間2万件前後と高止まりしています。

更なる対策強化の必要性

専門家からは、GPSによる位置情報把握や、加害者へのより厳しい罰則など、更なる対策強化を求める声が上がっています。また、被害者支援の充実も重要な課題です。

猪野詩織さんの遺影を見つめる両親猪野詩織さんの遺影を見つめる両親

詩織さんの父親、憲一さんは「娘と同じような悲劇を二度と繰り返さないために、ストーカー行為撲滅のために、これからも活動を続けていきたい」と語っています。私たち一人ひとりがストーカー問題の深刻さを認識し、被害者を支える社会の構築を目指していく必要があります。

ひまわりに見る希望:未来への願い

詩織さんが好きだったひまわりの花は、ご両親にとって、娘の笑顔を思い出す大切な存在です。太陽に向かって力強く咲くひまわりは、希望の象徴でもあります。

事件から25年。悲しみを乗り越え、未来へと歩み続けるご両親の願いは、ストーカー行為のない、誰もが安心して暮らせる社会の実現です。