対馬の観音寺に里帰り:高麗金銅観音菩薩坐像、来春返還へ

古の響きを今に伝える高麗金銅観音菩薩坐像。2012年に窃盗団によって韓国に持ち込まれたこの仏像が、ついに来春、本来の安置場所である長崎県対馬の観音寺へ返還される見通しとなりました。数奇な運命を辿った仏像の里帰り、そしてその背景にある日韓両国の寺院の思いに触れてみましょう。

600年の時を経て故国へ、そして再び日本へ

高さ50.5センチ、重さ38.62キロ。その荘厳な姿は、1330年ごろ忠清南道瑞山の浮石寺で造られたとされています。その後、倭寇の侵略により対馬へ渡り、400年以上にわたり観音寺で大切に奉安されてきました。2012年の盗難事件を経て、韓国での長い裁判の末、最高裁判所は観音寺の所有権を認めました。

観音寺の外観観音寺の外観

浮石寺の願い:100日間の「親見法会」

所有権を主張していた瑞山の浮石寺の円牛僧侶は、観音寺への返還に協力する意向を示しました。しかし、600年ぶりに故国へ戻った仏像が、本来の寺院である浮石寺に戻ることなく、再び日本へ渡ることを惜しむ気持ちも吐露しています。そこで、返還前に100日間の「親見法会」を開催し、多くの人々が仏像と対面できる機会を設けることになりました。円牛僧侶は、「冬が終わる頃にはじめたい」と語っており、具体的な日程は調整中とのことです。

所有権をめぐる攻防:取得時効の法理

韓国では、仏像は倭寇に略奪されたものであり、返還されるべきだという声が上がっていました。浮石寺も国を相手に訴訟を起こしましたが、最高裁判所は「取得時効」の法理に基づき、観音寺の所有権を認めました。これは、長期間にわたり正当に占有していれば、たとえ元々は他人の物であっても所有権が移るとする考え方です。

高麗金銅観音菩薩坐像高麗金銅観音菩薩坐像

観音寺の思い:一日も早い返還を

観音寺側は、5月15日よりも前に返還を受けたいと考えていましたが、「親見法会」の日程次第では返還時期が遅れる可能性もあります。一日も早く仏像が本来の場所に戻り、静かに祈りを捧げられる日が来ることを願っています。

もう一つの仏像:既に返還済み

2012年の盗難事件では、高麗金銅観音菩薩坐像と共に銅造如来立像も盗まれました。しかし、銅造如来立像については所有権を主張する者がいなかったため、2015年に日本へ返還されています。

文化財返還と日韓関係

今回の仏像返還は、文化財の返還問題だけでなく、日韓関係の複雑さも浮き彫りにしています。円牛僧侶は、ハンギョレ新聞の取材に対し、仏像が本来の場所に一度も戻ることなく返還されることへの無念さを語っています。この出来事をきっかけに、文化財の保護と国際的な協力の重要性を改めて考える必要があると言えるでしょう。

まとめ:未来への架け橋となるか

高麗金銅観音菩薩坐像の返還は、日韓両国の歴史と文化、そして人々の思いが交錯する象徴的な出来事です。この仏像が、未来へと繋がる架け橋となることを願ってやみません。