1999年11月28日、東名高速道路で起きた痛ましい事故。飲酒運転のトラックに追突され、炎上する車の中で幼い命が奪われました。井上奏子ちゃん（当時3歳）と周子ちゃん（当時1歳）。この事件は、危険運転致死傷罪の創設へとつながる大きな転機となりました。今回は、事故から25年を経て、当時の捜査を担当した元検事の視点から、井上夫妻の揺るぎない闘いと、その出会いがもたらした人生の変化に迫ります。
危険運転致死傷罪創設のきっかけ：井上夫妻の強い想い
炎上する車と、事故現場の様子を示す新聞記事の画像
当時、東京地検交通部の主任検事として捜査を担当した内藤秀男氏。彼にとって、井上郁美さんの「娘たちの死を絶対に無駄にしたくない」という言葉は、今も強く心に刻まれています。たった4年の懲役刑というあまりにも軽い判決に、深い悲しみと悔しさをにじませながらも、社会を変えようと立ち上がった井上夫妻。その姿は、多くの人の心を揺さぶり、危険運転に対する厳罰化を求める大きなうねりとなりました。
遺族支援の道へ：内藤弁護士の新たな人生
しのぶ会で挨拶する内藤弁護士の姿
2023年1月、検察を退官した内藤氏は、弁護士として新たな道を歩み始めました。前橋市に法律事務所を構え、交通事故被害者とその遺族の支援に尽力しています。毎年開催される「かなこちゃんちかこちゃんをしのぶ会」には、多くの遺族が参加。井上夫妻との出会いを通して、生きる希望を見出し、前を向いて歩み始めた人々の姿があります。
井上夫妻との出会い：検事人生、そして人生観を変える
内藤秀男弁護士の近影
内藤氏にとって、井上夫妻との出会いは、検事人生だけでなく、彼の人生観そのものを変える大きな転機となりました。事故直後、深い悲しみの中で、それでも社会のために闘うことを決意した井上夫妻。その強い意志と行動力は、内藤氏に大きな影響を与え、検察官としての職務を超えた、深い共感と敬意を抱かせるものだったのです。交通事故専門の弁護士、山田正彦氏（仮名）は、「井上夫妻の活動は、被害者支援の在り方を変えたと言えるでしょう。彼らの活動がなければ、今の交通事故被害者支援の体制はなかったかもしれません」と語っています。
井上夫妻の25年にわたる闘いは、今もなお多くの命を救い続けています。そして、その闘いは、一人の検事の人生をも大きく変え、被害者支援の新たな道を切り開いたのです。
