バリアフリートイレに「大人用介助ベッド」不足:障害児家族の外出の壁と人権

街中でバリアフリートイレの設置が進む一方で、いまだ多くの人々、特に体が大きくなってもおむつが必要な子どもたちとその家族が置き去りにされています。公共の場に存在する介助用ベッドが限られている現状は、障害を持つ子どもたちが安心して外出する上での大きな障壁となっており、これは単なる思いやりの問題ではなく、基本的な人権に関わる課題として認識されるべきです。

「外出は諦めない」親子の挑戦と現実の壁

千葉県に住む加藤さくらさん(44歳)は、福山型先天性筋ジストロフィーを抱え、全面的な介助を必要とする娘の真心さん(15歳)を連れて、国内外を問わず積極的に外出しています。真心さんが「自分にはできないことはない」という強い思いを抱いているにもかかわらず、外出には高いハードルが存在します。公園、駅、商業施設といった公共の場にはバリアフリートイレが増えましたが、「大人用介助ベッド」が備わっている場所は極めて少ないのが現状です。真心さんは全身の筋力低下により座位を保つことも困難なため、介助用ベッドは排泄時の移乗とケアに不可欠です。

床でのオムツ交換や我慢…家族が直面する苦悩

介助用ベッドがない場合、かつては子ども用のおむつ交換台を利用していましたが、真心さんの成長と共にそれも難しくなりました。加藤さんは、部屋を借りておむつ交換を依頼することもありますが、その都度、必要性を説明しなければならないことは、精神的な苦痛を伴います。他の障害を持つ子どもを育てる親たちからは、レジャーシートを床に敷いて対応したり、車内で交換したり、あるいはやむを得ずおむつで排泄させて我慢させるなど、様々な苦悩の声が聞かれます。このような状況は、障害を持つ子どもやその家族が外出をためらう大きな理由となっており、社会全体で早急な改善が求められています。

介助用ベッドが設置されたバリアフリートイレ。適切な利用方法が求められている介助用ベッドが設置されたバリアフリートイレ。適切な利用方法が求められている

トイレは「やさしさのバロメーター」:見えない困りごとと人権の問題

日本トイレ研究所代表理事の加藤篤さんは、「排泄は非常にデリケートなテーマであり、その困りごとは他者から見えにくく、共有も難しい」と指摘します。尿失禁や便失禁、IBD(炎症性腸疾患)、オストメイトなど、外見からは判断できない困難を抱える人も少なくありません。排泄は個人の尊厳に関わる重要な問題であるにもかかわらず、その重要性や課題が十分に認識されていないのが現状です。加藤氏は、公共トイレは直接的な金銭的利益を生まず、維持にはコストと手間がかかるものの、「公共トイレにどれだけ思いやりを詰められるか、トイレはやさしさのバロメーターだ」と語り、社会の成熟度を示す指標としてその価値を強調しています。

真に包摂的な社会を実現するためには、公共の場における介助用ベッドの普及が不可欠です。これは特定の個人への特別な配慮ではなく、すべての人が尊厳を持って生活し、社会に参加するための基本的な権利を保障するものです。この問題に対する社会全体の認識を深め、より実質的なアクセシビリティ向上に向けた具体的な行動が求められています。

参考文献