第75回NHK紅白歌合戦:サプライズと静寂、そして時代の変化

紅白歌合戦、75回目の今回は、まさに熱狂と感動の渦でした。歌と演出の力で視聴者に何かを伝えようとする情熱が、番組全体からひしひしと伝わってきました。今回はその中でも特に印象的だったシーン、そして紅白が抱える課題についても掘り下げていきます。

B’zのサプライズ登場とSNSの熱狂

今回のハイライトの一つは、間違いなくB’zのステージでしょう。当初は別スタジオからの出演と思われていたB’zが、NHKホールにサプライズ登場!「LOVE PHANTOM」「ultra soul」の演奏に、会場は一瞬でライブ会場さながらの熱気に包まれました。SNS上でも大きな反響を呼び、その盛り上がりは番組全体を牽引するほどでした。過去の松任谷由実さんのサプライズ登場と同様に、演出効果は抜群でしたね。

B'zの紅白歌合戦でのサプライズ登場の様子B'zの紅白歌合戦でのサプライズ登場の様子

静寂の中に響く、星野源の「ばらばら」

熱狂の一方で、静寂に包まれたパフォーマンスもありました。ニューヨークから中継で出演した藤井風さんの「満ちてゆく」もその一つですが、特に星野源さんのステージは、静かな感動を与えてくれました。

星野さんは今回、選曲変更という異例の事態に直面しました。当初予定されていた「地獄でなぜ悪い」から「ばらばら」への変更は、映画監督の性加害疑惑に対する批判を受けての判断でした。星野さん自身、番組サイドからの熱烈なオファーで「地獄でなぜ悪い」を選曲したと明かしています。闘病中にリリースされたこの曲が、困難に立ち向かう人々へのメッセージになるというNHK側の意図は理解できますが、残念ながら実現には至りませんでした。

曲目変更に見る紅白の課題

この出来事は、近年の紅白における「番組の企画・演出」重視の姿勢を浮き彫りにしました。B’z、氷川きよし、米津玄師、玉置浩二など、特別企画での出演が目立つのもその表れでしょう。

米津玄師さんは朝ドラ主題歌「さよーならまたいつか!」を、ドラマのセットをバックに披露。伊藤沙莉さんをはじめとするキャストとのコラボレーションは、まさに「映える」ステージでした。

米津玄師の紅白歌合戦でのパフォーマンス米津玄師の紅白歌合戦でのパフォーマンス

「番組の企画・演出」重視は、サプライズ演出にも繋がっています。B’zの登場だけでなく、ファンの自宅をサプライズ訪問した純烈のパフォーマンスも記憶に新しいですね。

視聴率という宿命と、懐かしのメロディー

こうした演出重視の背景には、紅白にとって避けられない視聴率問題があるでしょう。かつて80%を超える驚異的な数字を記録した紅白は、どうしても視聴率と比較されがちです。特に一昨年、史上最低の視聴率を記録したことから、今回は幅広い世代を意識した選曲が目立ちました。GLAY、南こうせつ、イルカ、THE ALFEE、高橋真梨子など、ベテラン勢の出演や、西田敏行さんの追悼企画で歌われた「もしもピアノが弾けたなら」も、その一環と言えるでしょう。

これらの曲は、かつての「一億総中流」時代、そして紅白が担っていた国民的一体感を彷彿とさせます。しかし、令和の時代に入り、社会は大きく変化しています。紅白歌合戦もまた、時代の変化と共に、その在り方を模索していく必要があるのかもしれません。