韓国大統領逮捕状執行で混乱、警察と高捜庁の対立鮮明化

韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の逮捕状執行をめぐり、高官犯罪捜査庁(高捜庁)と警察の対立が深まっている。高捜庁は尹氏への逮捕状執行を警察に一任すると発表したが、警察は事前の調整不足を理由に即時受け入れを拒否。捜査当局間の連携不足が露呈し、尹氏の逮捕は難航している。

逮捕状執行の失敗と高捜庁の苦悩

3日に行われた尹氏への逮捕状執行は失敗に終わった。大統領警護庁や軍関係者約200人がバリケードを築き、高捜庁捜査員の進入を阻止。高捜庁は5時間半に及ぶ対峙の末、執行を中断せざるを得なかった。

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この事態を受け、高捜庁は警察に逮捕状執行を一任する方針を打ち出した。李載昇(イ・ジェスン)高捜庁次長は6日の記者会見で、「尹氏側の抵抗の強さを想定していなかった」と釈明。「高捜庁の人員は約50人しかいないため、警察による迅速な制圧が望ましい」と説明した。

しかし、警察側は事前の調整がなかったとして反発。法的な議論が必要だとして、即時受け入れを拒否した。韓国メディアによると、最終的には高捜庁、警察などで構成する合同捜査本部が逮捕状執行にあたる方針で調整されているという。

高捜庁と警察の対立背景

高捜庁は文在寅(ムン・ジェイン)前政権下で設立された、政府高官の不正捜査を専門とする独立機関だ。検察の権限縮小を目的として設立された経緯があり、検察との対立も根深い。今回の逮捕状執行失敗を受け、野党からも高捜庁の「力不足」を批判する声が上がっている。

一方、警察内部では高捜庁への反発に加え、大統領警護庁要員への現行犯逮捕を阻止されたことへの不満もくすぶっているという。 韓国政界に詳しい専門家、李賢洙(イ・ヒョンス)氏は、「高捜庁と警察の対立は、捜査権限をめぐる主導権争いの一面もある」と指摘する。

政治的混乱の長期化懸念

尹大統領の逮捕をめぐる混乱は、韓国政界に大きな影を落としている。捜査当局間の対立が長期化すれば、政治の停滞を招きかねない。国民の政治不信が高まることも懸念される。今後の捜査の行方と、韓国政界の動向に注目が集まっている。

専門家の中には、今回の混乱は韓国政治の構造的な問題を反映しているとの見方もある。「大統領の権限が強すぎる一方で、捜査機関の独立性と連携が不十分なのが問題だ」と、政治学者の金明哲(キム・ミョンチョル)氏は指摘する。