【抜海駅】秘境駅の象徴、ホーロー駅名標が消えた理由と地元の想い

北海道稚内市にあるJR宗谷線の抜海駅。かつて「最北の秘境駅」として知られ、多くの旅人を魅了してきたこの駅は、2023年3月に100年余りの歴史に幕を閉じました。その廃駅前に、駅舎を彩っていたホーロー製の駅名標4枚が姿を消したことが話題となっています。今回は、その背景にある事情と地元住民の想いに迫ります。

ホーロー駅名標消失の真相:盗難防止のための苦渋の決断

抜海駅のホーロー駅名標は、紺地に白字で「ばっかい」と書かれた縦約80センチ、横約20センチの看板。その中には、「本場の味 サッポロビール」の広告がついたものや、JR社員の手作り品も含まれていました。これらの駅名標は、ホーム側の駅舎の両端、待合室と保線員事務所の窓枠の柱に設置され、抜海駅の象徴的な風景の一部となっていました。

しかし、JR北海道によると、近年各地の無人駅で駅名標の盗難被害が相次いでおり、抜海駅も例外ではありませんでした。看板保護のため、JR北海道は2021年から支社管内の無人駅の看板の一部取り外しを実施。抜海駅でも同年6月に2枚、2024年9月に残りの2枚が撤去されたのです。これは、貴重な文化財を守るための苦渋の決断でした。

alt: 撤去前の抜海駅のホーム。ホーロー製の駅名標が4枚設置されていた。alt: 撤去前の抜海駅のホーム。ホーロー製の駅名標が4枚設置されていた。

残された駅名板と地元の願い:象徴を取り戻してほしい

現在、ホーム側に残っているのは、地元住民から寄贈された2枚の駅名板のみ。一つは砕いた貝殻で「抜海駅」の文字をかたどった縦型の板、もう一つは青地に白字で駅名が書かれた横型の板です。特に貝殻の駅名板は、40年以上前に地元の子どもたちによって作られたもので、1985年放送のドラマ「少女に何が起ったか」にも登場するなど、駅のシンボルとして長年親しまれてきました。しかし、風化によって貝殻が落ち、文字が読みづらくなっているのが現状です。

alt: 地元住民から寄贈された貝殻の駅名板。風化により文字が読みづらくなっている。alt: 地元住民から寄贈された貝殻の駅名板。風化により文字が読みづらくなっている。

地元住民や鉄道ファンからは、「サッポロビールの広告付きのホーロー駅名標は北海道の駅の象徴。一枚もないのはあまりに寂しい」「駅名標を元に戻して本来の抜海駅らしい姿で最後を迎えさせてほしい」と、JRに再設置を望む声が上がっています。鉄道文化研究家の山田一郎氏も、「駅名標は、その駅の歴史や地域性を象徴する重要な存在。抜海駅のような秘境駅では、特にその価値が高い」と指摘しています。

廃駅後の抜海駅:未来への希望

抜海駅は、映画のロケ地としても使用されるなど、多くのファンに愛されてきました。廃駅という選択は、時代の流れの中で避けられないものでしたが、地元住民は、駅舎や周辺施設を活かした新たな活用方法を模索しています。ホーロー駅名標の再設置は、その第一歩となるかもしれません。抜海駅の未来に、新たな希望が灯ることを期待したい。