突然ですが、筆者には苦い記憶があります。
■胃の不調放置の結果…
クリニックを受診された40代の男性の患者さんが、胃の不具合を訴えておられました。症状から何らかの胃炎と診断し、薬を処方するとともに、血液検査でヘリコバクターピロリ菌に感染しているかを調べました。
結果は陽性で、ピロリ菌による慢性胃炎の悪化、ないしは胃がんが発生している可能性も考えました。胃カメラを受けるよう説明しましたが、その後、男性は通院されませんでした。
何年か経ったある日のことです。
女性を診察したあと、その方から「先生、あのときは夫に検査を受けるよう言ってくれてありがとうございました」と切り出されました。聞くと、女性はその男性の妻で、夫は先ごろ胃がんで亡くなったとのこと。亡くなる前に「先生に検査するよう勧められたのに、従わなかったのを、申し訳ないと言っていました」と話されました。
以来、「どうやったら男性が速やかに、かつ適切に受診をするように促すことができるのか?」は、筆者に課せられた宿題となりました。
■数字が語る「男性の医者嫌い」
実際、男性のほうが医療受診率が低いことは、さまざまなデータで示されています。
たとえば、厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査」によると、過去1年間に健康診断や人間ドックを受けた男性は73.1%と、女性(65.7%)より高いことが報告されています。これは、職場健診が必須となっていることが要因でしょう。
しかしながら、せっかく健診を受けて異常を指摘されたのに、二次健診を受診する率は男性のほうが低くなっています。
厚生労働省の「特定健康診査・特定保健指導に関するデータ」では、40〜74歳の特定健診で医師に受診を勧められた人のうち、女性は71%が受診しているのに対し、男性では67%にとどまっています。若いほど「忙しくて行かない」男性が多く、受診率の男女差が大きくなっています。
厚生労働省の患者調査でも、受療率は総じて女性が高く、15〜64歳の年齢層では、女性の受療率が男性の約1.5倍です。高齢層(75歳以上)になると男女差は縮まりますが、それでも女性がやや多い傾向にあります(※外部配信先ではイラストを閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください。