日本の大手企業JT(日本たばこ産業株式会社)で、精神疾患で休職した後に復職を認められず退職となった元社員が、会社を相手取り未払い賃金などを求めて東京地裁に提訴しました。本記事では、この訴訟の内容と背景について詳しく解説します。
精神疾患発症から休職、そして復職への道のり
元社員のAさんは2018年4月、JTに入社し営業職として高松支店に配属されました。しかし、新人育成担当者とのコミュニケーション不足や精神的なプレッシャーから抑うつ状態となり、2019年3月末から休職。休職と同時に線維筋痛症を発症し、アスペルガー症候群の診断も受けたとのことです。
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2021年2月には一度復職を果たし、2022年4月には東京支店の人事労務チームへ異動となりました。新たな環境での再出発に希望を抱いていたAさんでしたが、そこで想像を絶する苦難が待ち受けていました。
パワハラ、そして再びの休職
人事労務チームに配属後、Aさんは上司から「あなたみたいな無能は会社にいらない」「あなたを評価するつもりはない」といった人格を否定する発言を繰り返し受けたといいます。さらに、産業医からも「(Aさんの家族のなかで)あなただけ、頭がおかしいんだね」といった心無い言葉を浴びせられ、Aさんは再び抑うつ状態に陥り、2022年7月から休職を余儀なくされました。
2023年1月、主治医から就労可能との診断を受けたAさんは、JTに復職を申し入れます。しかし、Aさんの願いは届きませんでした。
復職の道は閉ざされ、自動退職へ
Aさんは6回にわたって復職を申し出ましたが、JT側は「休職の原因となった事由は消滅していない」として、その要求を拒否し続けました。JTが設置した復職審査委員会でも、毎回「就労不可」との判断が下され、最終的にAさんは休職期間満了により、2024年10月に自動退職となりました。
JT側は、Aさんのアスペルガー症候群という障害特性と職場のミスマッチ、周囲への負担などを理由に就労不可と判断したと説明しています。 労働問題に詳しい弁護士の山田一郎氏(仮名)は、「企業は、障害を持つ社員に対して、合理的配慮をする義務があります。今回のケースでは、JT側が十分な配慮を行ったのか、検証が必要でしょう」と指摘しています。
訴訟の行方と企業の責任
Aさんは、JTの対応は不当であるとして、未払い賃金約398万円の支払いと地位の確認を求めて提訴に踏み切りました。この訴訟は、企業における障害者雇用とメンタルヘルス対策のあり方を問う重要なケースとなる可能性があります。今後の裁判の行方、そして企業の社会的責任について、引き続き注目が集まります。