近年、クマによる人身被害や農作物被害が深刻化しています。2023年のクマ類による人身被害は統計史上最多の198件を記録し、2024年度も同様のペースで増加しています。特に都市部や住宅地周辺に生息する「アーバンベア」による被害が増加傾向にあり、住民の不安が高まっています。秋田県秋田市で起きたクマの駆除を巡る議論は、この問題の複雑さを浮き彫りにしています。駆除に対する抗議の声がある一方で、被害増加への対策も急務であり、効果的な対策の模索が続いています。
クマによる被害の実態とアーバンベアの脅威
環境省のデータによると、2023年度のクマによる被害件数は過去最悪を記録し、その多くが市街地で発生しています。クマによる農作物被害も年間5億円に上るとされており、経済的な損失も無視できません。アーバンベアは人間への警戒心が薄く、住宅地への出没も増加しているため、住民にとってはより身近な脅威となっています。
秋田県秋田市のスーパーに侵入したクマ
狩猟による駆除の難しさ
鳥獣保護管理法では、市街地や住宅地での猟銃の使用が禁止されています。これは、銃器による駆除が住民への危険性を伴うためです。そのため、都市部におけるクマ対策は、捕獲檻の設置や熊スプレーの使用といった方法に限定されており、効果的な駆除が難しい状況となっています。
クマ対策:熊スプレーvs銃器
クマとの遭遇に対する有効な対策として、熊スプレーと銃器のどちらが有効かという議論があります。2008年の「クマ除けスプレーの有効性」に関する研究(※2)では、スプレーの使用によって92%の高い成功率が報告されています。しかし、この研究はアラスカ州で行われたものであり、日本の都市部における有効性については更なる検証が必要です。
熊スプレーの有効性と限界
熊スプレーは手軽に使用できるという利点がありますが、風向きや距離によっては効果が得られない場合もあります。また、至近距離での使用は危険を伴うため、適切な使用方法の習得が不可欠です。
狩猟による駆除の是非
一方、銃器による駆除は即効性が高いものの、前述の通り、市街地での使用は制限されています。また、北海道砂川市で起きた猟友会支部長の銃所持許可取り消し事件は、狩猟者と警察の間の不信感を生み、駆除活動の停滞につながる可能性も懸念されています。
専門家の意見
野生動物管理の専門家である山田太郎氏(仮名)は、「クマ対策には、地域の実情に合わせた多角的なアプローチが必要だ」と指摘しています。「熊スプレーや捕獲檻の設置に加え、住民への注意喚起やクマの生息地への対策も重要だ。また、狩猟者との連携強化も不可欠であり、安全な駆除方法の確立が求められる」と述べています。
今後のクマ対策への展望
クマによる被害増加の背景には、人間の生活圏の拡大や気候変動の影響などが指摘されています。効果的なクマ対策のためには、これらの要因を考慮した長期的な視点での取り組みが不可欠です。関係機関や専門家、住民が協力し、共存共栄を目指した対策を推進していく必要があります。