高齢化が進む日本では、介護施設で最期を迎える方が増えています。病院でも自宅でもない、介護施設での生活、そして看取り。今回は、ある介護施設で暮らしていた岸田さんの物語を通して、食事介助の実際と、そこに込められた職員の温かい思いやりについてお伝えします。
脳卒中後の岸田さん:食事介助が必要になった日
岸田さんは脳卒中を患い、車椅子での生活を送っていました。水族館へのお出かけの後、病状が進行し、自分で食事をすることが困難になってしまいました。ご家族の希望もあり、施設では岸田さんの状態に合わせた食事を提供することになりました。
車椅子に乗る高齢者
飲み込みやすい食事と姿勢の工夫
岸田さんのために、ゼリーや高カロリー食など、飲み込みやすく栄養価の高い食事が用意されました。食事の際には、姿勢が非常に重要です。左右に傾きやすい岸田さんの体を支えるため、椅子の高さや座布団、クッションの位置を細かく調整し、足が地面についた前傾姿勢を保てるように工夫しました。全ての食事は職員による介助で行われました。
岸田さんの気持ちに寄り添う:コミュニケーションを重視した介助
食事介助は、ただ食べ物を口に運ぶだけではありません。まず大切なのは、岸田さんに「食べたい」という気持ちになってもらうこと。毎朝、「おはようございます、岸田さん。朝ごはんですよ。お天気もいいし、一緒に食べましょう」と明るく、ゆっくりと話しかけ、表情をよく観察しました。視線が合うか、頷いているか、何か言おうとしているか、心地よさそうか、不快そうか。些細な変化も見逃さないように、常に気を配りました。表情や体の傾きから、その日の気分や体調を把握し、介助に活かしました。
食事介助の様子
咀嚼・嚥下をサポート:職員の工夫とチームワーク
声かけや身振り手振りで、モグモグ、ゴックンという咀嚼と嚥下のリズムを促し、顎の下に手を添えて顎の動きをサポートするなど、様々な工夫を凝らしました。 「高齢者の食事介助においては、コミュニケーションと個別の状況把握が最も重要です」と、高齢者介護の専門家である山田先生は述べています。岸田さんのケースでも、職員一人ひとりの細やかな配慮とチームワークが、心地よい食事の時間を支えていました。
心を込めたケア:介護の現場から見える希望
岸田さんの物語は、介護施設における食事介助の一例です。食事は生きる喜びに直結する大切な行為。高齢者の方々が、少しでも快適に食事を楽しめるよう、そしてその人らしい生活を送れるよう、介護の現場では日々努力が重ねられています。