台湾最大野党・国民党立法委員の排除を目指した大規模リコール(解職請求)投票が26日に失敗に終わった。この背景には、「反中」を掲げる与党・民進党と、「親中」とされる野党・国民党との間に存在する深い亀裂がある。頼清徳総統は「オール台湾」の団結を訴えつつも、リコール運動支持を表明しており、今回の投票を機に与野党間の対立は一層激化している。
頼清徳総統の「団結」と国防予算問題
5月、与党支持団体が国民党立法委員のリコール署名を集めていた。ある会社員男性(61)は、国民党が主導した今年の防衛予算削減・凍結を問題視し、「国民党は大陸(中国)の独裁政権に寄り添っている」と強く批判した。頼総統は2月、防衛予算の対GDP比3%以上への引き上げ方針を発表しており、これは米国(特にトランプ政権との関係強化)と連携し、中国への牽制を強化する狙いがあった。しかし、頼政権の提案した予算が削減・凍結されることで、中国を利する結果となるため、与党側は危機感を募らせている。リコール推進団体は24日に大規模集会を開き、参加者からは「防衛予算を削減し、台湾の利益を顧みない」と国民党への非難の声が上がった。
台湾・台北市での国民党集会でリコール反対を訴える参加者ら。国民党と民進党の深刻な与野党対立が背景にある。
国民党の反論と社会の懸念
一方、国民党は翌25日に同じ場所で集会を開催。韓国瑜・立法院長は「リコールが成功すれば民進党の一党独裁に逆戻りする」と主張し、集まった参加者らは「頼清徳は辞めろ」と声を上げた。ある会社員女性(52)は民進党の税金の無駄遣いを批判しつつも、与野党対立による「社会の分断」を深く憂慮していると語った。
中国の介入と台湾社会の分断
台湾社会の深刻な分断は、中国に付け入る隙を与える。中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の報道官は6月、台湾のリコール運動を巡り「あらゆる方法で野党を弾圧している」と民進党を糾弾し、公然と国民党に加勢した。これに対し、台湾の対中政策を所管する大陸委員会は「中国共産党はリコール投票に赤裸々に介入している」と強い警戒感を示している。
今回のリコール不発は、台湾の二大政党間の根深い亀裂を浮き彫りにした。与野党間の激しい対立と社会の分断は、台湾の安定と安全保障に影響を与え、中国の介入を招きかねない。今後の台湾政治の動向と、それに伴う国際情勢の変化が注目される。