訪問介護崩壊の危機:人材不足と報酬引き下げで現場は疲弊

日本の高齢化社会を支える訪問介護サービスが、深刻な危機に直面しています。物価高騰、介護報酬の引き下げ、人材不足など、様々な要因が重なり、事業者の倒産・休廃業が急増しています。このままでは、2025年問題を前に、介護崩壊の懸念が現実のものとなる可能性があります。

訪問介護事業者の倒産・休廃業が過去最多に

2024年、倒産・休廃業した介護事業者は784件と過去最多を記録しました(東京商工リサーチ調べ)。そのうち約7割が訪問介護事業者です。ホームヘルパーが高齢者の自宅を訪問し、日常生活をサポートする訪問介護は、高齢者にとって不可欠なサービスですが、厳しい経営状況に追い込まれています。

訪問介護の様子訪問介護の様子

埼玉県鴻巣市で訪問介護事業を営む「なでしこ」も、厳しい現実に直面しています。ガソリン価格の高騰による移動コストの増加、2024年4月の介護報酬改定における訪問介護の基本報酬引き下げなど、経営を圧迫する要因が重なっています。

物価高と報酬引き下げのダブルパンチ

「なでしこ」の加藤英樹代表取締役は、「訪問介護事業がなくなってしまう、つまり崩壊してしまう可能性がある」と危機感を募らせています。パート職員の月収は15万~17万円程度で、生活は苦しい状況です。生活必需品の高騰も追い打ちをかけ、職員の生活も困窮しています。「介護職の魅力向上のための処遇改善が必要だ」と訴える声も上がっています。

人材不足と仕事量の増加という悪循環

近隣の訪問介護事業者の廃業により、「なでしこ」への仕事の依頼は増え続けています。しかし、他業種との賃金格差から人材不足は深刻化しており、既存の職員の負担が増加する悪循環に陥っています。介護の質の維持と職員の健康を守るためには、早急な対策が必要です。

訪問介護スタッフ訪問介護スタッフ

2025年問題への対応は待ったなし

2025年には団塊の世代が後期高齢者となり、介護需要はさらに増大すると予想されています。東洋大学の高野龍昭教授は、「日本の高齢者の生活習慣への理解が不可欠なため、外国人介護人材の導入は遅れている。介護崩壊が起きれば、医療機関に負担が集中し、医療崩壊にもつながりかねない」と警鐘を鳴らしています。

介護現場への支援強化が急務

介護現場の疲弊を食い止め、持続可能な介護サービスを提供していくためには、国による支援策の強化が急務です。処遇改善、人材育成、経営支援など、多角的なアプローチが必要です。高齢化社会の未来を守るためにも、介護業界への理解と支援が求められています。