硫黄島の戦い。太平洋戦争末期の激戦地として、その名は歴史に深く刻まれています。しかし、戦後70年以上を経た今も、多くの日本兵の遺骨が島に残されたままです。今回は、ノンフィクション『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』を参考に、知られざる遺骨収容の物語と、硫黄島に眠る英霊たちの記憶に迫ります。
遺骨調査:五感を研ぎ澄ませた捜索
戦後、硫黄島で行われた最初の遺骨調査。元陸海軍将校からなる調査団は、島の地形や当時の兵士たちの心理を読み解きながら、壕の捜索を行いました。驚くべきことに、彼らは「においがする」という感覚を頼りに、壕のありかを探し当てたといいます。まるで、島自体が彼らの捜索を導いているかのようでした。当時の記録には、彼らが「地形の関係上『ここには、どうも洞窟があるらしい』という意味」で「においがする」と表現していたことが記されています。 長年の軍隊経験と研ぎ澄まされた五感が、この困難な任務を可能にしたと言えるでしょう。
硫黄島の地下壕
壕の中の壮絶な光景
苦労の末に見つかった壕の中は、想像を絶する光景でした。折り重なる白骨、担架に横たわる遺体、自決の跡…。調査団は「思わず眼をそむけることがたびたびであった」と記録しています。平和な日常からはかけ離れた、まさにこの世の地獄のような光景が広がっていたのです。しかし、壕の外に出ると、木漏れ日、鳥のさえずり、車の音…まるで悪夢から覚めたかのような感覚に襲われたといいます。この島の持つ、生と死が隣り合わせの特異な環境が、彼らの心に深く刻まれたことでしょう。
幽明の境なき島
調査団は硫黄島を「幽明の境がない超常的な島」と表現しました。墓地を暴けば悲惨な光景が広がるのは当然ですが、硫黄島の場合は、あの世とこの世を隔てる「扉」がないのだと彼らは指摘します。そして、遺体を収容し、英霊たちを故郷に帰還させ、「この島に幽明のきまりをつけ、その扉を立てる」必要性を訴えました。
硫黄島の慰霊碑
硫黄島の記憶を未来へ
硫黄島は、今もなお多くの英霊たちが眠る場所です。遺骨収容は現在も続けられており、多くの関係者が尽力しています。戦争の記憶を風化させず、未来へ語り継いでいくことが私たちの責務ではないでしょうか。平和な時代だからこそ、硫黄島の歴史と、そこに眠る英霊たちの想いに改めて向き合いたいものです。