認知症の方の「困った行動」は、実は周りの人を困らせるためではなく、ご本人が助けを求めるSOSである可能性があります。この記事では、認知症の新しい見方、そしてご本人の苦痛を理解し、適切な対応をするためのヒントをご紹介します。
認知症の「困った行動」はなぜ起こる?
家族や介護施設のスタッフから、認知症の方が興奮したり、介護が難しくなることがあるという相談をよく耳にします。このような行動は、しばしば「行動・心理症状(BPSD)」と解釈されます。
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しかし、興奮などの症状が急に現れた場合、まずは「せん妄」の可能性を検討することが重要です。せん妄は、夕方から夜間に症状が悪化するなどの特徴があります。原因となる薬の服用を中止するなど、適切な対応が必要です。
せん妄の可能性が低い場合は、高齢てんかんや、うつ病などの精神疾患も考慮します。これらの可能性も除外された場合に、初めてBPSDを疑います。
BPSDを「チャレンジング行動」として捉え直す
BPSDを「家族を困らせる症状」と捉えるのではなく、「ご本人が何かを伝えようとしているチャレンジング行動」と捉え直すことが大切です。
チャレンジング行動とは、知的障害や発達障害のある方の支援現場で生まれた考え方です。ご本人が環境に適応できず、困っていることを表現し、正しい対応を求めている行動と解釈します。
認知症の方にもこの考え方を当てはめると、多くの場合、腑に落ちる点があります。例えば、虫歯や便秘の場合、健康な人であれば、適切な対処ができます。しかし、認知症の方は、苦痛を自覚しても、適切な行動をとることが難しくなります。
困った行動の裏にあるSOS
認知症の方が歯の痛みやお腹の張りで苦しんでいる時、それを「チャレンジング行動」と捉え、SOSとして受け止めることが重要です。苦痛の原因を探り、適切な対処をすることで、ご本人は落ち着きを取り戻すことができます。
例えば、東京医科歯科大学名誉教授の角田忠信先生は、著書の中で、認知症の方の行動を理解する上で、ご本人の視点に立つことの重要性を説いています。(参考:『認知症の行動・心理症状への対応』)
つまり、BPSDは「家族を困らせる症状」ではなく、「ご本人が困っていることを表現している症状」なのです。
具体的な事例:便秘によるイライラ
便秘が続くと、誰でもイライラしやすくなります。しかし、認知症の方は、そのイライラを言葉でうまく伝えられない場合があります。そのため、怒りっぽくなったり、興奮したりといった行動として現れることがあります。
このような場合、BPSDと決めつけるのではなく、便秘の可能性を考え、適切な対処をすることが重要です。水分摂取を促したり、食物繊維の多い食事を提供したりすることで、症状が改善される場合があります。
まとめ:認知症の方の気持ちに寄り添うケア
認知症の方の「困った行動」は、SOSのサインです。ご本人の苦痛を理解し、適切な対応をすることで、穏やかな生活を送れるよう支援しましょう。周りの人が、認知症という病気を正しく理解し、寄り添うことが、何よりも大切です。