落語と聞くと、年配の男性が演じる伝統芸能のイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、令和の落語界には、新たな風が吹き始めています。今回は、元エステティシャンという異色の経歴を持つ若手落語家、鈴々舎美馬さんをご紹介します。伝統と革新の狭間で、彼女はどのように落語をアップデートしていくのでしょうか。師匠である鈴々舎馬風さん、兄弟子の馬るこさんの声も交えながら、その挑戦に迫ります。
JUDY AND MARYの出囃子で高座へ! 鈴々舎美馬の挑戦
高座に上がる鈴々舎美馬さん
JUDY AND MARYの「そばかす」が流れ、高座に上がると、会場の空気が一変します。美馬さんは、エステサロンを舞台にした新作落語を披露。新人エステティシャンの若者言葉で繰り広げられる物語は、時に会場の雰囲気から浮くことも。それでも臆することなく、観客を自身の噺の世界へ引き込んでいきます。
2023年11月に二ツ目に昇進した美馬さん。翌年にはNHK新人落語大賞の本選にも出場を果たしました。元エステティシャンという経歴を生かした新作落語など、彼女ならではの試みは常に注目を集めています。
YouTubeやコスプレも活用!新たなファン層を開拓
YouTubeでは、水曜日のカンパネラの「エジソン」を歌ったり、漫画のコスプレを披露したりと、その活動は多岐に渡ります。企画から衣装選びまで、すべて自身で手がけているとのこと。
「同世代や若い方、落語を見ない方、女性にも落語の魅力を知ってもらいたい」と語る美馬さん。様々な企画を通して、新たなファン層の開拓に挑戦しています。
高座後、スマホで撮影に応じる美馬さん
世代やジェンダーのギャップに悩む日々
近年、女性落語家だけを集めた「桃組」の興行が活況を呈したり、『あかね噺』といった女性落語家を題材にした漫画が人気を集めるなど、落語界にも変化の波が訪れています。しかし、寄席に足を運ぶ観客の多くは依然として中高年男性です。
美馬さんは、自身のネタが誰にどう受け入れられているのか、日々模索しています。「世代によって笑いのツボは違う」と語る彼女は、ジェンダーギャップについても言及。「女性の自虐ネタは older generation にはウケるけれど、若い世代にはどうでしょうか。逆に若い世代を意識しすぎると、媚びているようで不自然になってしまう」と、その難しさについて語ります。
伝統芸能の特殊な環境と時代の変化
落語界という特殊な環境の中で、時代の変化をキャッチすることの難しさも感じているようです。「楽屋に入ると年齢が止まる」と言われるように、楽屋での会話は世代間のギャップを感じさせないもの。しかし、いざ高座に上がると、時代の空気とのズレを感じ、観客の笑いを誘えないのではないかと不安になることもあるそうです。
落語協会100周年記念公演の様子
鈴々舎美馬さんは、伝統と革新の狭間で、自分らしい落語の形を模索し続けています。彼女の挑戦は、令和の落語界に新たな可能性を示唆していると言えるでしょう。