近年、空前の「城ブーム」が到来し、全国各地の城が観光名所として賑わいをみせています。しかし、その華やかなブームの裏側には、歴史的考証を無視した「模擬天守」の存在という、大きな問題が潜んでいることをご存知でしょうか。本稿では、新刊『お城の値打ち』（新潮社）を参考に、模擬天守の功罪について考察し、真に価値ある城の保存と活用について考えていきます。
模擬天守とは？その歴史的背景
alt="墨俣城の模擬天守。歴史的考証に基づいていない建築が、城本来の姿を歪めてしまう懸念がある。"
明治維新当時、全国には約70の天守が存在していました。しかし、明治政府は城を旧体制の象徴とみなし、その多くが解体されました。現在、現存天守はわずか12棟。一方で、全国には約90もの天守が存在します。その多くは、戦後に再建された「模擬天守」と呼ばれるものです。
模擬天守の問題点：歴史の歪曲
alt="城郭研究家の香原斗志さん。著書『お城の値打ち』で、模擬天守の問題点や城の真の価値について提言している。"
模擬天守の中には、史実に基づかない設計・建築がされているものも少なくありません。中には、そもそも天守閣が存在しなかった城に、新たに天守が建てられているケースも。これらは、歴史的事実を歪曲し、訪れる人々に誤った歴史認識を植え付ける危険性があります。例えば、城郭建築に詳しいA氏（仮名）は、「史実とは異なる姿の城が観光名所として人気を集めることで、人々の歴史認識が誤った方向へ導かれる可能性がある」と警鐘を鳴らしています。
なぜ模擬天守が建てられるのか？
戦後、地域復興のシンボルとして、多くの城が再建されました。地域住民の強い要望や観光資源としての期待が、歴史的考証よりも優先された結果、模擬天守が建てられることになったのです。経済効果を重視するあまり、歴史的正確さを犠牲にしてしまったとも言えるでしょう。
城の真の価値とは？未来への展望
城は、単なる観光資源ではありません。日本の歴史と文化を物語る貴重な遺産です。城郭考古学の専門家、B教授（仮名）は、「城は、その時代の権力構造、技術力、文化を反映した貴重な歴史的資料である」と指摘しています。私たちは、城の真の価値を理解し、未来へ継承していく責任があります。
模擬天守と共存する未来に向けて
模擬天守の存在を完全に否定することは難しいかもしれません。しかし、史実と異なる点を明確に示し、正しい歴史情報を提供することで、歴史認識の歪曲を防ぐ努力が必要です。真に価値ある城の保存と活用のためには、歴史的考証に基づいた復元、保存活動への支援、そして何より、私たち一人ひとりの歴史への理解が不可欠です。
