人間社会における家父長制は、長らく「自然の摂理」と捉えられてきました。しかし、ヒトに最も近縁な動物であるボノボの社会では、メスが群れを率いる「メス優位社会」が築かれていることが、近年の研究で明らかになっています。本記事では、ボノボのメス優位社会の実態と、そこから見えてくる家父長制の起源について、分かりやすく解説します。
ボノボのメス優位社会: 権力の源泉は「強い絆」
サンディエゴ動物園のボノボ
サンディエゴ動物園でのある出来事。母親から離れたオスのボノボが、年上のメスから攻撃を受け、怯える様子を目の当たりにしました。南カリフォルニア大学の霊長類学者、エイミー・パリッシュ氏によると、ボノボのオスは母親を頼りに群れの中で地位を築くため、母親の不在はオスにとって大きな痛手となるそうです。パリッシュ氏の長年の研究により、ボノボ社会ではメスが優位に立っているという事実が裏付けられました。
ボノボのメスは、オスを追いかけたり攻撃したりすることで知られています。これは、遺伝的にヒトに非常に近いボノボの生態を知る上で、重要な意味を持ちます。「家父長制は自然なもの」という固定観念を覆す可能性を秘めているからです。
チンパンジーとの比較: メス優位社会の秘密
エモリー大学の心理学教授、フランス・ドゥ・ヴァール氏は、20年以上にわたる研究の中で、オスが率いるボノボの群れを見たことがないと断言しています。チンパンジーのようにオス優位の社会構造を持つ霊長類が多い中、ボノボのメス優位社会は特異な存在と言えるでしょう。
では、ボノボのメス優位社会はどのように成り立っているのでしょうか? 体格差は、その要因ではありません。ボノボのメスはオスよりわずかに小さいものの、チンパンジーも同様にメスの方が小さいからです。鍵となるのは、メス同士の強い社会的絆です。ボノボのメスは血縁関係に関係なく、互いの性器をこすり合わせるなどして親密な関係を築き、強力なネットワークを形成しています。この結束力が、メス優位社会を支える大きな力となっているのです。
家父長制を見つめ直す: ボノボからの学び
ボノボのメス同士の交流
ボノボのメス優位社会は、私たちに家父長制の起源について再考を促します。人間社会における「男性優位」は、本当に自然の摂理なのでしょうか? ボノボの社会構造を理解することは、ジェンダーや社会構造に関する私たちの認識を深める上で、貴重なヒントを与えてくれるはずです。
ボノボ以外にも、シャチ、ライオン、ブチハイエナなど、メス優位の社会を持つ動物は存在します。これらの動物の社会構造を研究することで、多様な社会のあり方や、リーダーシップの在り方について、より深く理解できるようになるでしょう。