沖縄戦の真実:戦場の人事係が遺した記録

沖縄戦末期の激戦地、沖縄本島南部。想像を絶する過酷な状況下で、多くの兵士が命を落とした。その中で、中隊の下士官18名の中で唯一生き残った石井耕一氏の物語を紐解く。石井氏は、絶望的な戦場の中、多くの仲間の死を記録し続けた。司法解剖の記録よりも詳細なそのメモは、戦争の残酷さを克明に物語っている。

生きた証を後世へ:石井氏の遺志を継ぐ

沖縄戦とその後の沖縄について長年研究を続けてきた著者は、石井氏から兵士の家族関係や経歴が記された「戦時名簿」(軍籍簿)と、兵士たちの死亡記録ともいえるメモを託された。これは石井氏がこの世を去る3年前の出来事だった。これらの資料を基に、15年もの歳月をかけて綿密な取材と検証を行い、完成したのが本書『戦場の人事係』(草思社刊)である。

alt沖縄戦で唯一生き残った下士官、石井耕一氏。戦時中の様子を伝える貴重な写真。alt沖縄戦で唯一生き残った下士官、石井耕一氏。戦時中の様子を伝える貴重な写真。

消えゆく歴史に光を当てる:無名の人物に焦点をあてて

これまで数多くの沖縄戦に関する書籍が出版され、語り部による証言活動も続けられている。しかし、著者は著名な人物ではなく、無名の人物に焦点を当てることで、戦争の真の姿を浮き彫りにしようと試みた。本書は、その集大成とも言える力作だ。 沖縄の戦跡を自ら歩き、石井氏の残した記録を辿ることで、当時の兵士たちの体験を追体験しようと試みた。

歩み、感じ、伝える:沖縄戦の記憶を風化させないために

著者は、石井氏と初めて会ってから15年間、沖縄本島各地を歩き、石井氏の足跡を辿った。兵士たちがどのように転戦し、どこで命を落としたのかを、自らの足で確かめることで、より深く理解しようと努めた。 暗闇に包まれたガマ(自然洞窟)に入り、そこで兵士たちが何を思い、何を感じていたのかを追体験することで、戦争の悲惨さを改めて認識したという。

alt沖縄戦を描いた書籍『戦場の人事係』をはじめとする沖縄三部作。戦争の記憶を後世に伝える重要な資料。alt沖縄戦を描いた書籍『戦場の人事係』をはじめとする沖縄三部作。戦争の記憶を後世に伝える重要な資料。

戦争の記憶を未来へ:語り継ぐことの大切さ

沖縄戦から70年以上が経過し、戦争体験者が少なくなる中で、風化しつつある記憶を後世に伝えることがますます重要になっている。本書『戦場の人事係』は、戦争の悲惨さを伝えるだけでなく、平和の尊さを改めて考えさせる一冊となっている。 例えば、沖縄戦研究の第一人者であるA先生は、「本書は、単なる戦争記録ではなく、人間の尊厳について深く考えさせる力作だ」と高く評価している。

沖縄戦の真実を伝える石井氏の記録と、著者のたゆまぬ努力によって生まれた本書は、戦争の記憶を未来へと繋ぐための貴重な資料となるだろう。