ロシア西部のクルスク州で、ウクライナ軍と北朝鮮軍が激しい戦闘を繰り広げている。ただし戦況はウクライナ軍が一方的に撃退していると見られており、北朝鮮軍には多数の戦死者が出ているようだ。さらにCNNは1月29日、「戦場で倒れた北朝鮮兵が、最後に『金正恩将軍』と叫びながら頭のそばで手榴弾を爆発させた」という衝撃的な記事を配信した(註1)。
【写真】中朝国境で薪を集めていた“半農半軍”の北朝鮮兵たち。撮影者は貧弱な体型に驚いたという
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これまで合計約1万2000人の北朝鮮兵がロシアに送られ、そのうち約4000人の兵士が死傷したと欧米の諜報機関などは推測してきた。単純計算でも被害率33・3%という高い数字になり、戦死者の数も尋常ではないようだ。
BBCの電子版は1月22日、「About 1,000 North Koreans killed fighting Ukraine in Kursk, officials say(クルスク州でウクライナ軍と戦闘した北朝鮮兵の戦死者は約1000人と当局筋)」との記事を配信した。1万2000人のうち1000人が戦死した場合、戦死率は8・3%。1クラスが50人の高校があるとすれば、クラスの4人が戦死し、少なくとも12人が負傷した計算となる。
CNNの記事も衝撃的だったが、手榴弾で自死した北朝鮮兵の人数を共同通信が1月14日に報じている。ウクライナ政府や軍に取材した結果、20人近くの兵士が手榴弾を自ら爆発させて死亡したことを確認したという(註2)。
軍事ジャーナリストは「中国・吉林省にある中朝国境で北朝鮮兵を目撃したことがあり、強い印象に残りました」と言う。
「驚いたのが兵士の体型です。とても痩せていて、栄養状態が良くないことは一目瞭然でした。兵士は薪を集めており、『北朝鮮軍は訓練より食料生産を優先している』という報道が正しいことが分かりました。いわば“半農半軍”という日常生活なのでしょう」
“無能な味方は敵より怖い”
当初、ロシアに送られる北朝鮮軍は「暴風軍団」のような精鋭部隊ではないかと考えられていた。
「暴風軍団は特殊部隊として知られ、例えば半島有事の際は韓国に侵入してテロ作戦を実行すると見られています。確かに暴風軍団のエリート兵士もロシアに派遣されたのかもしれません。しかしウクライナ文化情報省は昨年の10月、ロシア国内の訓練場で装備品を受け取っている北朝鮮兵の動画を入手し、SNSに公開しました。その動画を見ると、北朝鮮兵の体格は貧弱です。つまりロシアに派遣された北朝鮮軍の中には“普通の兵士”も少なくないのです。となると、彼らの練度も決して高くはないでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
専門家が首を傾げるのは、本来なら戦力にカウントできないはずの北朝鮮兵をロシア軍の部隊に合流させ、最前線へ送っている点だ。
「“無能な味方は敵より怖い”という言葉があります。最前線の部隊を担当するロシア軍の指揮官は、北朝鮮兵に恐怖を感じているに違いありません。練度が低く、ロシア語を喋れないため充分なコミュニケーションもできず、同士討ちの懸念があるからです。反旗を翻して自分たちを攻撃してくる可能性もゼロではありません。信頼できない外国人の兵士が完全武装で、自分たちのすぐ側にいるわけですから、プレッシャーは相当なものがあると考えられます」(同・軍事ジャーナリスト)