ついにトランプ米大統領が関税戦争を始めた。カナダとメキシコには関税25%を、中国には追加関税10%を課すことにした。経済史を見ると、関税攻撃は報復を招くものだった。案の定。カナダなどが直ちに報復を宣言した。 中国は米国の仮想敵国に他ならないが、カナダとメキシコはグローバル化時代の象徴・北米自由貿易協定(NAFTA)のパートナーだ。このようなカナダとメキシコまでトランプ氏のいけにえになっている。一時代が終わりつつあるという傍証だ。
◇トランプ大統領の蔵は借金でいっぱい
トランプ大統領は、カナダなどが不法移民や麻薬密売などを傍観しており、米国の安保に害になるという名分を掲げた。しかし、政治リーダーの言語は二重的な場合が多い。名分と本音が異なる可能性があるということだ。実際、トランプの関税戦争の裏には経済的現実が混乱している。まさに借金だらけの国庫だ。トランプ大統領が先月20日に就任し、渡された蔵には約36兆ドル(約5582兆円)にのぼる借金がある。天文学的な規模だ。その上、借金が増える速度があまりにも速い。米国の国家負債が35兆ドルを超えたのは昨年7月26日前後だった。半年程度で借金が1兆ドル以上増加した。
昨年10-12月期の米国経済は2.3%(年率)成長した。直前の7-9月期の3.1%よりは低いが、低迷の兆しを見せている欧州などと比べれば、堅実な流れだ。それだけ米国の国内総生産(GDP)と肩を並べる国家負債比率が低くなるのも当然だ。実状はそうではない。GDPに対して国家負債比率が115%水準まで低くなったが、昨年末には再び120%を越えた。
◇別の税収を求めて
米政府の利子負担が深刻だ。最近、米政府は平均3.3%の利子を払って国債などを発行している。連邦準備制度(FRB)が基準金利を急激に引き上げた時と比べて、かなり低くなった利率だ。しかし、ゼロ金利時代の2021年当時、米政府の平均金利は年1.5%程度だった。この時と比べると、最近の米政府の利率が2倍以上高い。そのため、年間利子負担が1兆1800億ドルに及ぶ。これは昨年の国防費(8420億ドル)より多い。連邦政府の年間税収の中で利子として出るお金が36.3%程度に達する。元金償還まで加えれば、米政府の総負債元利金償還比率(DSR)が税収の40%を上回る。韓国ではDSR比率が40%以上であれば、住宅担保融資さえ受けにくい。
にもかかわらず、トランプ氏は大統領選挙の間、減税を公約に掲げた。もう少し正確に言えば、最初の任期の2017年に始まった減税の恩恵は今年ほとんど終わるが、これを延長すると約束した。公約通りになれば、内国税収入が年間3000億~4000億ドル減るというのが米議会予算局(CBO)の分析だ。すでに増えた国家負債に減税まで加われば、米政府の蔵は破滅の瀬戸際に立たされるしかない。この時、トランプが提示した代案がまさにもう一つの税金、すなわち関税だ。内国税を減免する代わりに、関税で税収を補うという計画だ。
◇次は全面戦争の可能性
昨年、米国の関税収入は約1000億ドル水準だ。トランプ2期初年度の今年、カナダなどに賦課した関税のために増える可能性がある。しかし、報復関税などで交易量が減り、経済成長がさらに鈍化する可能性がある。カナダなどに対する関税賦課では減税が引き起こした税収の穴を埋めることは難しい。切羽詰ったトランプ氏がもう一歩進む可能性がある。まさに韓国などすべての貿易国を狙った「普遍関税(universal tariff)」導入だ。関税戦争が全面戦争に変わる。
普遍関税を課すためには法を直さなければならない。法案が議会の上院・下院を通過するためには平均的に11カ月程度時間がかかる。立法過程がトランプの思い通りになされれば、関税収入がかなり増えることはありうる。ワシントンのシンクタンク・税金財団(Tax Foundation)によると、普遍関税が導入される場合、来年の関税収入が3000億ドル台に増える。その後、関税収入はますます増加し、2035年に4500億ドルに達するものというシミュレーション結果が出た。関税増加分が年間2000億~3500億ドル水準だ。議会CBOも同様の予測値を出した。CBOによると、2026~35年の間、10年間の関税収入増加分が2兆5000億ドル程度になる可能性があると予測した。年間増加分は2500億ドルだ。一見すると、トランプが減税で減った内国税収入を関税で埋めるという計画がとんでもないわけではない。専門家らがトランプ大統領が関税戦争を韓国などが含まれた全面戦争に拡大すると見る理由だ。
◇「最後の勝者は米国人ではない」
しかし、経済で計算は単純ではない。関税戦争が始まれば物価が上がる。米国人の実質所得が減少する。税金財団によると、今回のカナダなどに対する関税攻撃のため、一世帯当たりの実質所得が年間800ドル程度減少する見通しだ。1世帯当たりの減税効果がどれくらいになるかはまだ分からないが、関税が引き起こした実質所得減少分と比べると、あまり差がなさそうだ。トランプが普遍関税を導入すればGDP減少幅が、減税が産んだ増加幅より30%程度大きいと議会CBOは予測した。関税戦争の最終勝者は米国人ではないということだ。しかし、最終損益計算書はトランプ大統領の退任後に出てくる。その時まで、トランプ大統領は自分ならではの算法によって関税戦争の遊びに熱を上げる可能性が高い。
カン・ナムギュ/国際経済先任記者