パリで移民支援団体に取材を申し込んだら、「産経新聞はダメ。価値観があわない」と断られた。日本語が読めないのに、どう判断したのかを聞くと、ウィキペディアを見たという。「保守系メディアはみんな断った。フィガロ紙も同じだから、気にするな」と変な慰められ方をした。
そこで、仏語版ウィキペディアを見て驚いた。産経新聞は「歴史修正主義者たちの伝達役」とあった。出典は、24年前のルモンド外交月刊紙の記事。自虐史観の見直しを求める教科書運動で、本紙が後押ししているという内容だった。英語版は「極右新聞」と書いた韓国の英字誌を引用していた。言葉の壁があるとしても、定義が乱暴すぎる。
取材を断られた恨みではないだろうが、くだんのフィガロ紙は最近、ウィキペディアを痛烈に批判した。出典が左派系紙に偏っていると指摘し、「もはや中立原則は消えた」と手厳しい。同紙によると、ジェンダー偏向をなくすとして、報酬を出してコンテンツ量産を促す団体もあるらしい。米国では実業家、イーロン・マスク氏がウィキペディアのボイコットを呼びかけて物議をかもす。
フランス人は口うるさいが、論議を戦わせるのが好きだったはず。「自分の正義」を振りかざし、異論を封じる風潮に染まらないでほしい。(三井美奈)