ここにも増税の波…「首都直下地震で帰宅困難452万人」受け入れ整備する施設に”冷や水”かける自治体の言い分


 日本各地に点在する寺院や神社など宗教法人の中には社会貢献活動を実施している施設も少なくない。例えば、災害時の避難場所、災害備蓄倉庫の設置、子ども食堂の開設などである。

【写真】震災直後、機転を利かせた職員がSNSを通じて境内地を開放していることを呼びかけた中央区の築地本願寺

 だが近年、こうした一部施設に対して固定資産税が課税される問題が起きている。課税当局である市町村は「宗教活動のための施設に当たらないから」と説明する。きょう明日にも、大規模災害がやってくるかもしれない緊迫の状況の中、「宗教課税の壁」が立ち塞がっている。

 2011年3月の東日本大震災発生当日。東京23区内においてもほぼ全ての区で震度5弱以上の強い揺れを観測し、港区にある増上寺では、街に溢れ出した帰宅困難者を受け入れた。同寺は、冷暖房完備の本堂(大殿)のほか、数百人を収容できるホール、宿泊や飲食ができる会館などを有している。

 施設の一部が休憩所として開放され、おにぎりや味噌汁などの温かい食事が振る舞われた。増上寺に避難した帰宅困難者は500人以上に上ったという。

 中央区の築地本願寺でも震災直後、機転を利かせた職員がSNSを通じて境内地を開放していることを呼びかけた。およそ500人を受け入れて、食事などを提供した。震源地に近い東北でも、多くの宗教施設が避難民を受け入れた。

 国土交通省は、マグニチュード7程度の首都直下地震が30年以内に発生する確率を70%(2020年1月時点)と予測している。その際に発生する帰宅困難者の数は、東京都の試算で約452万人にも上る。街には食料や医薬品、トイレ、休憩所などの提供を求めて人々が溢れ返ることになる。

 太平洋側の広範囲の地域で大津波の被害が想定されている南海トラフ地震でも、1000万人近い避難者が発生することが指摘されている。しかし、いずれも避難所の不足が課題になっている。

 そこで、神社仏閣、教会などの宗教施設で被災者を受け入れるための整備が進められている。実は全国に宗教施設は17万8500カ所(仏教寺院7万7000、神社8万4000など)もある。東京都内だけでも8000カ所もある。広い境内地を有し、耐震基準を満たし、冷暖房が完備されている建物も少なくない。こうした宗教施設の公益目的利用を促進させていくことが、急務となっている。

 内閣府では避難所運営ガイドラインを策定し、宗教施設の積極活用を自治体に促し、宗教界もそれに応えている。例えば、区市町村などの自治体と宗教法人との災害協定を結ぶ動きである。大阪大学大学院の稲葉圭信教授の調査によれば、指定避難所など災害時協力関係にある宗教施設は、およそ4500カ所(418自治体)に上るという。

 こうした施設では本堂や礼拝堂、庫裡、葬儀用会館などを一時避難施設として開放することが可能になる。加えて、緊急車両の駐車スペースの提供、井戸水の共用(宗教施設には多く存在する)、マンホールトイレの設置、災害備蓄品(水、食料、医薬品、段ボールベッド、毛布、炊き出し用具、発電機、臨時Wi-Fi設備など)の保管、遺体安置所などの設置ができる宗教施設は多い。

 事前に自治体と協定を結び、災害対策をしておくことで、小学校や公民館などの指定避難所と同等か、それ以上の機能を果たすことができる。寺院の本堂や座敷などには、畳が敷かれ、多くの座布団や椅子が既に備わっている。さらに災害備蓄倉庫や消化設備、発電・蓄電器、自動対外式除細動機(AED)などを置いておけば、「地域の命綱」となれる。

 2023(令和5)年には渋谷区と、原宿にある東郷神社が協定を結んだ。東郷神社は結婚式場としても人気で、5つの宴会場を避難者のために開放するという。また、写真スタジオとして使っていた部屋を災害備蓄倉庫として整備した。周辺は若者の街として知られ、災害発生時には混乱が予想されている。

 仏教や神道、教派神道、キリスト教、新宗教の5つの構成団体と関連団体から構成される公益財団法人日本宗教連盟も、宗教施設の公益活用に意欲をみせる。

 「東日本大震災や能登半島地震が契機となり、宗教側の防災意識が高まっている。大規模災害時に宗教施設が果たす役割は大きく、宗教・宗派の垣根を越えた防災の取り組みが必要だ。地域にはせっかく避難所として機能する寺院や神社がたくさんあるのだから、それを活かし、救われる命を最大限守っていくことは社会にとっても宗教界にとっても大事なこと」(同連盟)

 だが、そこに水を差す動きが見られる。



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