【バンコク=森浩】タイの首都バンコク近郊で開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議が4日、閉幕する。閣僚の派遣を見送った米国は存在感が薄く、関連会議はASEANを自陣に取り込もうとする中国のペースとなった。ASEAN側に米国への失望感が残る結果となり、今後の南シナ海をめぐる情勢にも影響を与えかねない事態だ。
トランプ米大統領は3年連続で参加を見送り、米国が閣僚級も送らなかったことから、ASEAN内部では会議開始前から、「米国はアジアを軽視している」との不満が上がった。
象徴的だったのが、4日午前の米国のオブライエン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)とASEANとの会議だ。東アジアサミット(EAS)に合わせて例年開かれる米国との会議では、これまでASEAN首脳が顔をそろえた。だが今回はASEANで参加した首脳は議長国タイのプラユット首相ら3人。露骨に“格下げ”で対応した。
ASEAN外交筋は「ウクライナ疑惑や大統領選の準備などでトランプ氏も忙しいのだろう」と推察したが失望感はぬぐえない。米中貿易摩擦が域内経済を減速させる中、関連会議ではマレーシアのマハティール首相が「彼1人の決定で貿易戦争が始まった」と発言。トランプ氏への不信感をあらわにした。
一方、中国はASEANを取り込む動きを着実に進めた。李克強首相がASEAN首脳との会議をこなし、南シナ海での紛争防止に向けた「行動規範」の早期策定で一致した。
中国は規範で、第三国と南シナ海で合同軍事演習を実施する際には「中国を含む周辺国の同意が必要」とする規定を盛り込もうと狙う。新たな海上でのルールをASEANと早期に策定することで、南シナ海で米国の影響力排除を図っていることは明らかだ。
3日の中国とASEANの首脳会議では、ベトナムやフィリピンから南シナ海での中国船の活動に不満の声が上がったが、対中でASEANが一枚岩になる気配はない。巨大経済圏構想「一帯一路」を通じて巨額資金を受け取るカンボジアなどは、既に関連会議の議長声明作成に際して対中批判のトーンを弱める動きに出ている。
シンガポール外交筋は「ここまで米国の存在感がなかったEASは初めて」と分析。「南シナ海で摩擦を抱えるベトナムやフィリピンに『米国は重しになりえない』という失望感が広がったことは間違いないだろう」と振り返った。