公益通報者保護法巡る斎藤兵庫県知事と消費者庁の応酬:「法解釈に齟齬なし」公文書公開も知事説明は曖昧

公益通報者保護法に関する法解釈を巡り、兵庫県の斎藤元彦知事と消費者庁の間で見解の対立が深まる中、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に基づき女性自身が開示請求した消費者庁の公文書が波紋を呼んでいる。この公文書には、消費者庁が兵庫県に対し、知事の法解釈が消費者庁の見解と「齟齬がないこと」を確認したとの記録が残されている。

斎藤知事 公益通報者保護法に関する会見斎藤知事 公益通報者保護法に関する会見

公開された公文書は「応接録」と題され、作成日は令和7年5月14日。同日13時10分から13時15分にかけて行われた、消費者庁参事官室職員から兵庫県県政改革課長への電話の内容が記録されている。その記述は以下の通りだ。

《(当方)公益通報者保護法改正案は、本日、参議院で審議入りした。今後の国会審議で問われる可能性もあるため、貴県知事の一般的な法解釈の認識が、消費者庁と兵庫県庁の電話応接録 公益通報者保護法解釈に関する記録・2号通報又は3号通報を行った公益通報者も、保護要件を満たせば、解雇等の不利益な取扱いから保護されること、 ・事業者がとるべき措置の内容を定めた法定指針では、「公益通報者を保護する体制の整備」を求めているが、ここでいう「公益通報者」には、2号通報又は3号通報をした者も含むこと、 という消費者庁の法及び法定指針の解釈と齟齬がないことを確認したい。 (先方)消費者庁の法解釈について、知事も理解しており、齟齬はない。 (当方)了。》

この記録は、参議院で公益通報者保護法改正案の審議が始まった同日に、消費者庁が知事の法解釈の認識を確認するために行ったものであり、県側が消費者庁の解釈と「齟齬はない」と回答したことが明記されている。

斎藤知事独自の法解釈とその波紋

問題の発端は、元県民局長の告発文書が公益通報者保護法における3号通報(外部通報先への公益通報)に当たると、県が設置した第三者委員会が認定したことにある。この認定を受け、斎藤知事は3月26日の会見で、告発者を探索した県の対応が公益通報者保護法違反と認定された件について独自の見解を示した。

知事は会見で、「体制整備義務につきましても、法定指針の対象について、3号通報も含まれるという考え方がある一方で、これは内部通報に限定されるという考え方もあります」と述べた。これは、事業者に通報者の探索を禁じる体制整備義務を課す法定指針が、3号通報には及ばないという法解釈を示すことで、自身の違法性を否定しようとするものと見られている。しかし、この知事独自の法解釈が大きな問題となった。

消費者庁からの反論と国会での言及

斎藤知事の見解に対し、消費者庁は速やかに対応した。4月8日には、兵庫県の県政改革課に対し「公益通報者保護法に関するご連絡につきまして」と題するメールを送付。知事の見解を否定し、「適切な対応」を求めた。

さらに、4月17日には国会でもこの問題が取り上げられた。立憲民主党の川内博史衆議院議員からの質問に対し、消費者庁の審議官は「(公益通報者保護法の)法定指針におきましては3号通報に関する体制整備義務について規定している部分がある」と明確に答弁し、斎藤知事が示した「内部通報に限定される」という考え方を否定した。伊東良孝消費者担当大臣も、「(県議会と第三者委員会の結論について)一定の納得をしなければならん」と述べ、第三者委員会の判断に理解を示す姿勢を見せた。

これらの消費者庁や大臣からの指摘に対し、斎藤知事は「消費者庁から一般的な法解釈としての指摘がされたことは大変重く受け止める」と述べるにとどまり、3月26日の会見で示した独自の見解を撤回も修正もしなかった。

公文書開示後の情報錯綜と曖昧な回答

今回開示された5月14日の「応接録」は、知事の「重く受け止める」発言を受けた消費者庁が、改めて知事の法解釈の認識に「齟齬がないこと」を確認するために行った電話の記録である。記録によれば、県側は明確に「齟齬はない」と回答している。

この応接録を受けて、5月16日には伊東大臣が閣議後の会見で「兵庫県から、知事の解釈について返答があり、消費者庁の法解釈と齟齬がないことを確認」したと発表した。しかし、同日の朝日新聞WEB版は、県の県政改革課への取材として<県の県政改革課によると、14日に消費者庁の担当者から電話があり、「消費者庁の法解釈を知事は理解している」との趣旨を伝えた。だが、知事の解釈が消費者庁の解釈と一致しているかどうかは伝えていないという>と報じ、県側が「齟齬がない」と発言したことを否定したと伝えたことで、情報が錯綜した。

消費者庁は、この状況を受け、5月22日には全国の自治体に向けて「行政機関における公益通報者保護法に係る対応の徹底について」という通知を送付。改めて消費者庁の法解釈(3号通報も体制整備義務の対象となること)を強調し、斎藤知事の見解を間接的に否定した。この問題は、いまだ解決の糸口が見えない状況が続いている。

少なくとも、電話当日に作成された消費者庁の公文書には、「消費者庁の法解釈について、知事も理解しており、齟齬はない」と明確に記載されている。

消費者庁の法解釈と知事の法解釈は一致しているのか、あるいは異なっているのか。この根本的な問いに対し、斎藤知事自身が明確な見解を示すことが求められている。6月25日の定例会見で「消費者庁の見解と知事の見解は同じなのでしょうか、違うのでしょうか?」と問われた斎藤知事は、再び「公益通報者保護制度について、ご指摘いただいた消費者庁の通知などというものは重く受け止めてるというところです」と述べるにとどまった。

消費者庁との間に法解釈の「齟齬がある」のか、「齟齬はない」のか。斎藤知事がこの点を明言しない限り、公益通報者保護法を巡る兵庫県と消費者庁の見解対立の問題は、解消されそうにない。