大阪市が東日本大震災の原発事故で避難してきた新鍋さゆりさんに対し、市営住宅からの退去を求めた訴訟で、大阪地裁は11月22日、複雑な判決を下しました。本記事では、この判決の内容と今後の展望、そして原発避難者が抱える困難について詳しく解説します。
判決概要:明け渡し認めつつ、市の違法行為も認定
今回の判決は、新鍋さんへの住宅明け渡しを命じる一方、大阪市による過剰な指導と生活保護上の注意義務違反を違法と認め、市に5万5000円の賠償を命じるというものでした。 市が請求した損害金も、当初の約1800万円から約840万円に減額されました。
alt新鍋さんが居住する大阪市内の市営住宅。退去を迫られる現状に、多くの疑問の声が上がっています。
この判決について、新鍋さんの弁護団は「仮執行宣言が付かず、損害金が減額されたこと、市の違法行為が認定されたことは大きな意義がある」と評価しました。仮執行宣言とは、判決確定前に強制執行を可能にする手続きです。 地裁がこれを認めなかったことで、新鍋さんは当面の住居確保が可能となりました。
判決の争点:生活保護打ち切りと「いじめ」の実態
大阪市は2017年3月、原発避難者への住宅無償提供を打ち切り、新鍋さんにも退去と生活保護の打ち切りを通告しました。しかし、避難中に末期がんを患い、重度障害者となった新鍋さんは、引っ越しが困難な状況にありました。
新鍋さんは、市職員から「ホゴ(生活保護受給者)は一人前の口きいたらあかん」「ホゴは道の端通って帰り」「ホゴは黙って」などといった心無い言葉を浴びせられ、精神的な苦痛を受けたとも訴えています。 弁護団は、これらの言動が生活保護法に違反する人権侵害にあたると主張しました。
控訴へ:避難者住宅保護のあり方を問う
弁護団は、明け渡し請求を認めた判決は不当だとして、大阪高裁に控訴しました。 彼らは「憲法、国際人権法、公営住宅法の趣旨に基づき、あるべき避難者住宅保護のあり方を訴える」と表明しています。 新鍋さんのケースは、原発事故避難者の住宅保障という重要な社会問題を改めて浮き彫りにしました。
今後の課題:避難者の生活再建への支援
原発事故から10年以上が経過した現在も、多くの避難者が生活再建の途上にあります。 新鍋さんの訴訟は、避難者の置かれた厳しい現実と、行政による支援の必要性を改めて示すものです。 今後、司法の場でどのような判断が下されるのか、注目が集まります。