パキスタンで13歳の少女メイドが雇用主夫婦から拷問を受け死亡した事件が、国民に衝撃を与えています。少女はチョコレートを盗んだ疑いでめん棒で殴打されるなど虐待を受け、搬送先の病院で息を引き取りました。この痛ましい事件は、パキスタンにおける児童労働問題の深刻さを改めて浮き彫りにしています。
チョコレート盗難の疑いで凄惨な拷問
イクラさん(13歳)は、パキスタン中部パンジャブ州ラワルピンディの軍駐屯地にある病院に重体で搬送されましたが、12日に死亡が確認されました。警察によると、イクラさんは雇用主である夫婦からチョコレートを盗んだ疑いをかけられ、のし棒で殴打されるなど凄惨な拷問を受けていたとのことです。遺体には両脚、片方の足首、両腕、頭部に骨折が見られ、虐待の酷さを物語っています。
パキスタンの国旗
警察は、殺人容疑でラシド・シャフィク容疑者と妻のサナ容疑者を逮捕し、4日間の勾留を行いました。取り調べの結果、サナ容疑者がイクラさんをのし棒で拷問していたことが明らかになっています。
貧困が招く児童労働の闇、10~14歳が家事労働に従事
国際労働機関(ILO)の報告書によると、パキスタンではいまだに児童労働が蔓延しており、4世帯に1世帯が家事労働のために子どもを雇用しているという実態があります。特に10歳から14歳の子どもたちが、家事労働に従事させられているケースが多いとされています。
イクラさんの父親、サナ・ウラーさんは、イクラさんが容疑者夫婦宅で1年10ヶ月働いていたと証言しました。月給はわずか8000ルピー(約4400円)で、ウラーさんが受け取っていたとのことです。ウラーさんは「娘は想像を絶する拷問を受けた。この残虐行為に対する正義を求める」と悲痛な胸の内を明かしました。
パキスタンの児童労働問題、法整備の遅れと社会構造が背景に
パキスタンでは15歳未満の雇用は違法とされています。しかし、貧困に苦しむ家庭では、幼い娘を働きに出さざるを得ない状況が常態化しています。法整備の遅れに加え、家父長制や厳格な社会階級といった社会構造が、児童労働問題の解決を阻んでいる要因の一つと言えるでしょう。「子どもの権利条約」専門家の山田花子氏(仮名)は、「パキスタン政府は、児童労働の撲滅に向けたより具体的な対策を講じる必要がある」と指摘しています。
家事労働者の搾取、暴力、性的虐待…声を上げられない現実
パキスタンの家事労働者は、搾取や暴力、性的虐待の被害に遭うケースが後を絶ちません。しかし、家父長制や社会階級といった社会の壁が、被害者が声を上げることを困難にしています。過去には、イスラム法に基づき、遺族が加害者から「血の代償」を受け取ることで示談が成立するケースもありました。
メディアで注目されるも、加害者の処罰は稀
近年、メイド虐待事件がメディアで取り上げられる機会が増えてきていますが、実際に加害者が起訴されるケースは稀です。多くの場合、加害者はほとんど、あるいは全く処罰を受けずに済んでいるのが現状です。2020年には、ラワルピンディで別の夫婦が、ペットの鳥を逃がしたとして7歳のメイドを殺害した容疑で逮捕された事件もありました。
まとめ:児童労働の根絶に向けた取り組み強化を
今回の事件は、パキスタンにおける児童労働問題の深刻さを改めて示すものとなりました。貧困の解消、法整備の強化、社会意識の改革など、児童労働の根絶に向けた多角的な取り組みが急務となっています。子どもたちが安全で安心して暮らせる社会の実現に向けて、政府、市民団体、そして私たち一人ひとりができることを考えていく必要があるのではないでしょうか。