認知症による行方不明者が過去最多を更新する中、一人残された家族の苦悩は計り知れません。この記事では、63歳で姿を消した妻を今も探し続ける65歳夫の物語を通して、高齢者認知症の深刻さと社会的な支援の必要性について考えます。
58歳で認知症発症、愛する家族の顔がわからなくなる悲劇
広島県に住む久保敦男さん(65歳)は、認知症で行方不明になった妻・しげみさん(当時63歳)を今も探し続けています。しげみさんは58歳で認知症と診断され、記憶障害が徐々に進行。ついには娘や孫の顔さえも分からなくなってしまうほどでした。敦男さんは警察署を訪れ、行方不明者届けの更新手続きをしながら、県外へ出ている可能性を心配そうに尋ねる姿が印象的です。 「どこかで生きていてくれれば…」という切実な願いと共に、一人暮らしとなった敦男さんは、かつて妻が作ってくれたラーメンを作りながら、楽しかった日々を思い出します。食卓を囲んで家族みんなでラーメンを食べたあの頃…今では叶わぬ思い出となってしまいました。
alt=行方不明になった久保しげみさんと夫の敦男さんの写真。敦男さんは寂しげな表情でカメラを見つめている。
墓参りの帰り道、突如として姿を消した妻
CMディレクターとして多忙な日々を送っていた敦男さんは、子育てを妻に任せきりだったと振り返ります。「妻には感謝しかない」と語る敦男さんですが、その感謝の気持ちを伝える相手はもういません。2023年4月3日、家族で墓参りに訪れた際、しげみさんは孫の顔を認識できていない様子でした。認知症の進行を目の当たりにした敦男さんは、不安な気持ちを抱えながら墓地を後にします。そして、その帰り道、しげみさんは一人で先に坂道を下りて姿を消してしまったのです。 「まさかこんなことになるなんて…」敦男さんの後悔は尽きません。
増加する認知症行方不明者、社会全体で支える仕組みづくりを
警察庁の発表によると、2023年に認知症が原因で行方不明となった人は約1万9千人と過去最多を記録。高齢化社会の進行と共に、認知症による行方不明者は増加の一途をたどっています。家族の負担を軽減し、安心して暮らせる社会を実現するためには、GPS機能付き機器の活用や地域の見守りネットワークの強化など、社会全体で支える仕組みづくりが不可欠です。 専門家である山田医師(仮名)は、「早期発見・早期治療に加え、地域社会の理解と協力が重要です。徘徊行動への対応策を事前に家族や地域で共有することで、行方不明のリスクを減らすことができます。」と指摘しています。
alt=久保しげみさんが行方不明になった坂町の墓地の風景。穏やかな春の日に、悲しい出来事が起こった場所。
愛する人を守るために、私たちができること
認知症は誰にでも起こりうる病気です。 敦男さんのように、大切な家族を失う悲劇を繰り返さないために、私たち一人ひとりが認知症への理解を深め、地域社会で支え合うことが大切です。 この記事を通して、認知症高齢者とその家族への温かい支援の輪が広がることを願っています。